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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
53/110

52.暗転 その8

翌日。



いつものオフィスでの休憩中に、リコは再度慎也の携帯にかけて見たが、相変わらず通じなかった。



メールも何度か出しているが、返事が来ない。



リコはため息をついた。



本当にどうしちゃったんだろう?



彼の性格からすれば、簡単に人をすっぽかすようにも思えなかった。



何のリアクションが来ない分、もちろん不満もあるが、不安もあった。



「まだ、慎也さんから連絡はないの?」

ハナは今回の件は大体リコから聞いていた。



リコは静かに首を振った。


「帰りに、ちょっとお店行ってみるね」






仕事の帰り、リコもアルバイトしていたバイク屋へ行ってみた。



まだ営業を再開出来る状態ではなく、従業員が片付けをしたり、取引先との連絡や説明などで慌ただしそうであった。



割れたガラスの修復も済んでおらず、店はあの時の事件の姿をそのまま残していた。



そのせいもあって店の前は野次馬が興味本位でかなり群がっていた。




「リコちゃーん!」

近藤が遠くからリコの姿を見つけて声をかけてくれた。






「やっぱり、尾藤くん、来ていないんだね」

「ああ」

リコの言葉に近藤が真剣な顔つきになった。


「俺も携帯かけてるけど、アイツ通じないんだよ」

「近藤くんも?」

近藤は深く頷いた。




「アイツに貸したジャージもまだ返してもらってないし、良かったらリコちゃん帰りにシンの家一緒に寄ってみる?」

「うん、そうさせて」




一通り片付けの区切りをつけて、近藤はリコを自分のアメリカンバイクに乗せて、慎也の家へ向かった。




夜もすっかり暮れて、闇が辺りを包んだ。



横浜市南区の、幹線道路を逸れた閑静な住宅地に慎也のアパートはあった。




「ここなんだ…」

建物は比較的新しくて築10年も経っていない感じだった。単身者用のアパートで恐らくワンルームタイプだろう。



「いないな…」

近藤は慎也のバイクがないのに気が付いた。



「シン…アイツどこ行っちまったんだ…」







同じ頃――

横浜みなとみらい地区にある高層ビルが立ち並ぶオフィス街。


その高層ビルの一つが30階建ての「尾藤ビル」であった。

尾藤建設の本社はその上層階の10フロアー分を占めていた。



その最上階に社長室がある。

広い社長室のガラス張りの窓を背に、社長の尾藤真一郎が深々と座っていた。


「ご子息様がお着きになりました」

「通せ」

女性秘書の声に真一郎は命令した。


秘書を通じて連れて来られたのは、慎也だった。



いつものラフな格好ではなく、紺の細いストライプの入ったスーツ姿に、髪の毛は整髪され、黒いフレームの眼鏡をかけていた。


その顔には表情がなかった。




「良く来てくれたな」

父親である真一郎は感慨深そうに慎也を見つめた。


慎也は父親に深々と頭を下げた。



「お前が私の後を継いでくれるというなら、私は今日付けで社長を辞して会長に就任するつもりだ。お前にはその後を継いで社長になってもらう」

慎也は表情を変えずに黙ったままだった。


「神奈川県下で尾藤建設というゼネコン名を知らない関連業者はいない。その為にも明日以降関連業者への挨拶回りをしたいと思っている。よろしく頼むぞ」


「分かりました…」

慎也は同じく無表情で答えた。



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