36.ためらい その7
慎也との関係がぎくしゃくしたまま、リコは週明けを迎えた。
いつもの仕事も、何となくはかどらない。
「何か元気ないじゃん?」コピー機の前でうなだれるリコに声をかけてくれたのは、ハナだった。
「そ、そう?」リコは慌てて答えた。
「アタシの目はごまかせないよー。さては沢田さんと何かあった?」
「う、ううん、何もない。良くしてくれてるし」
「まあ、だとすれば倦怠期が原因なのかもね。よくあることだから、気にしない方がいいって!」
落ち込みの原因は、ハナの知らない相手なんだとは言えなかった。
リコはやり場のなさにふうっとため息をついた。
その時。
リコの着信メロディが鳴った。
着信主は、慎也だった。
「もしもし?」
リコはおそるおそる電話に出た。
『今日、仕事終わったらそっち迎えに行っていい?』突然の慎也の言葉にリコは驚いた。
「ごめん、今日迎えが来るから一緒に帰れない」
リコはハナにそう言った。
「別にいいよ。それより迎えって誰?沢田さん?」
ハナはリコを迎えに来る相手に興味津々のようで、慎也との待ち合わせ予定のビルの入り口のところまで着いてきた。
ためらっているところに、リコには見慣れた、赤いタンクのCB1300SFがビルの前の大通りから滑り込んで来た。
「待った?」
ヘルメットをとった慎也の顔にハナは思わず見惚れた。
「リコ、彼って?」
てっきり沢田だと思い込んでいたハナは、状況が呑み込めていないようだった。
「あ、後で説明するね!」
リコは慎也から自分のヘルメットを受け取ると、バイクの後ろに乗り込んで行ってしまった。
「どうしたの?急に」
信号待ちのところで、リコは背中越しに慎也に尋ねた。
「ちょっと、連れて行きたいとこがある」
連れて行きたいとこ?
訳が分からず、二人が来たのは、おおよそ慎也のイメージからはかけ離れた、山手の港の見える丘公園だった。




