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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
36/110

35.ためらい その6

リコにしてみれば、まさか慎也の口から一樹の名前が出るなんて思っても見なかった。



今は慎也に対する不満よりも、そのことの方が気になって仕方なかった。




だが、やはり他の男の名前が出たのなら、少しくらい妬いてくれてもいいのにと、思わなくはなかった。




「尾藤くん」

「ん?」

「あの時のキスは、冗談だったの?」

リコは周囲に誰もいないのを確認して、思い切って尋ねてみた。



慎也は驚いたようにリコを見つめた。



「尾藤ちゃん、納品来たから対応して」

奥から店長が慎也を呼ぶ声がした。




結局、それ以来、リコは慎也にキスの本当の気持ちを聞けずに終わってしまった。



尾藤くんは自分のことはどうでも良かったのではないか。

リコの中で、まだ慎也のことが信用仕切れないでいた。





慎也も慎也で、何となく後味が悪いままで終わってしまった感じがしていた。




そうは思いつつも、何か打つ手は何もない。




慎也はとりあえず、アパートに戻ると、いつものように、コンビニで買って来た弁当と缶ビールで遅い夕食にした。



時間や余裕がある時は、これでも自炊を少しはやるのだが。




そういえば、今晩は確かテレビ神奈川で真岡サーキットのモトGPの放送オートバイのロードレースのことがあるのを思い出した。



急いで20インチのワイドテレビをつけると、映し出されたのは横浜港の見える丘公園のローズガーデンだった。



あれ?と思って見ると、テロップが出た。

『本日放送予定のモトGP真岡は、都合により放送延期となりました。』


テロップに慎也は、「なんだよー」とガックリ首をうなだれた。




ささやか楽しみが消えて、失望のうちにチャンネルを変えようと、缶ビールを片手にリモコンをとった。


その手がふと止まった。




画面に映し出されるローズガーデンは自分の世界とは無縁の世界。

しかし、その世界にふと、リコの姿が重なった。




柄にも無く、慎也はバラ園の映像に見入っていた。



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