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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
35/110

34.ためらい その5

再びリコがバイトに戻ってくる週末がやってきた。



リコが戻ってくるのは、慎也にとっては素直に嬉しいことだった。



だが、一方で…。



『サワダカズキ』


忘れても良さそうな名前を、慎也は何故だかいつまでも忘れらることが出来なかった。


そして、思い出す度に不快な気分になる。




週明けのことはなるべく忘れようと、慎也は仕事に没頭することにした。




幸いバイクも大した問題はなく、あれ以来異常音も直っていたのは何よりだった。



しかし、リコはあれ以来不機嫌である。




リコにしてみれば、慎也の態度が何となく曖昧で、不安は拭えない。




「尾藤くん、さっきの納品の伝票こっちでいい?」

「うん…」

慎也は納品されたバイクのチェックやメンテに集中していて顔を合わせてくれない。


こんな具合に、仕事中も、何となく二人の関係はぎこちなかった。




リコはそれが少し不満だった。




「どうかしたの?リコちゃん。何か元気なくない?」

心配して声をかけて来たのは近藤だった。


「そ、そうかな?大丈夫だよ。心配かけてゴメンね」リコは悟られまいとわざと明るく振る舞った。


「なら、いいけど」

近藤もそれ以上突っ込めなかった。




近藤は、今度男子トイレに行き、用を足そうとしている慎也の隣に来て自分も用足しする。




「リコちゃん、何か元気なさそげだったぞ」

「うん」

素っ気ない返事の慎也を近藤はジロリとにらんだ。


「うんって、お前心配じゃねえのかよ」

「心配は心配だけど…」

慎也はしどろもどろに答えた。



「だったらもう少し声くらいかけてやれよ。てめえのソレは飾りモンか?」

そう言うと、近藤は隣の小便ブースから慎也のを覗き込んだ。



「な、何見てんだよ!」

慎也は恥ずかしくなって思わず近藤から隠そうとした。

「何ってナニに決まってんじゃん」

近藤は涼しげに言った。




手を拭きながら、慎也は恥ずかしそうに仕事に戻った。



『もう少し声くらいかけてやれよ。てめえのソレは飾りモンか?』

最後のところは余計だが、確かに近藤の言うとおりかもしれないと思った。



しかし、気にはなるものの、実際に何を話せばとなると思い付かない。

「声かけるったって…」



仕事をしているリコの背中を見ながら、慎也はあのことを思い出した。




雨にはならないものの、今のリコの気持ち同様、すっきりしない曇り空だった。


せっかく慎也のいる週末だと言うのに…。



あのキスから、自分が何か期待すること自体間違っていたのだろうか?




「リコ」

背後から、低い声が呼び掛けた。



「なに?」

ちょっぴり嬉しい感情を抑えながら、リコは振り返った。



「お前、『サワダカズキ』って奴知ってる?」


慎也から出た意外な名前にリコは一瞬頭が真っ白になった。



「何で沢田さんのこと…?」

リコは驚いて尋ねた。



「いや、ちょっと噂に聞いただけだから…」

慎也もリコの反応から、マズイことを聞いたかもしれないと、それ以上は突き詰められなかった。




『リコくんから手を引いてくれないかな?』


まさか自分が実際に会って、一樹に言われたことなど、話せるわけがない。




リコに余計な心配はさせたくなかった。


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