33.ためらい その4
週明けの月曜日。
今日は慎也のバイクの調子が珍しく少々悪い。
出勤途中、バイクの走行時に異常音がしていた。
休憩時間中は、店の裏に止めてあるバイクをしらべながら、慎也はずっと首を傾げていた。
「直りそう?」心配して近藤が近づいて来た。
「エンジンとかタイヤに異物ないか見たけど分かんねえ…」
「オイルとかじゃねえ?」「そんなに乗ってねえんだけどな」
まだ昨年購入したばかりなので、今ダメになったら本当に困る。
仕事柄、エンジンなど部品はある程度いじれる慎也だが、さすがに今回は部品そのものの問題のようでお手上げだった。
仕方なく、整備士のいるディーラーに預けることにして、慎也にしては珍しく徒歩で帰った。
代車を勧められたが、自分の愛車でないと、ポジションが合わず、乗り心地が何となく悪いので断った。
アパート迄は歩いて帰れる距離だったし、だいたい男一人夜道を歩いたところで問題があるワケがない。
夜、その帰り道…。
「尾藤慎也くんだね?」
聞き覚えのない、クリアな声が慎也を呼び止めた。
少し暗くなったところで顔は分からない。
「どちらさん?」
慎也は少し警戒するように尋ねた。
「『サワダカズキ』ってリコくんに聞けば分かるよ」
リコの名前に、慎也の目が少しだけ大きくなった。
『サワダカズキ』?
慎也にとっては一樹は初対面だった。
一樹は、明かりのあるところに一歩踏み出して、慎也の前に顔を表した。
慎也の、Tシャツにカーゴパンツというラフなスタイルとは全く違い、良品質の白い半袖シャツにネクタイを締め、ベージュのベストに着崩さないスラックスという一樹。
一見するとおぼっちゃま学校の男子高校生に見えなくもない。
「キミは確か、高校時代は良く名前の知られた不良だったそうだね。暴走族のリーダーの経験もあり、暴力団興和会の仙崎はもと相棒だとか…」
「ずいぶん俺のこと調べてんじゃねえかよ?」
慎也はふっと、ため息をつき、不快そうに一樹を見つめた。
「リコとはどういう関係なんだ?」
慎也は咎めるように聞いた。
「そうだね…。僕は彼女のフィアンセ候補とでも言うべきかな?」
一樹の言葉に、慎也の眉が少し動いた。
「フィアンセ?」
「キミは彼女をねらっているの」
正面から慎也を見つめつつ、一樹は尋ねた。
「リコは、俺にとって大切な存在だ。ねらってるとかそんなヤラシイ考えなんかじゃねえ」慎也は身体を横に向けながら言った。
「彼女には伝わっていないけど」
それを聞いて一樹はクスっと余裕の笑みを浮かべた。「じゃあ、所詮片想いなんだね」
ややバカにするような口調の一樹を、慎也は横目で睨んだ。
「言っとくけど、僕は彼女に決めたんだ。リコくんから手を引いてくれないかな?」
一樹の勝手な物言いに、慎也は憤った。
「そんなことはリコが決めることだろ!」
慎也はやや声を荒げて言った。
「リコに何かしたら許さねえからな!」
しかし、一樹は尚も余裕の笑みを浮かべた。
「まあ、後のお楽しみだね。いづれ、キミは彼女から手を引くんだから…」
そう言い残すと、一樹は脇に止めてあった自分の白い高級車に乗り込み、その場を去って行った。
なんなんだあの野郎と思いながら、残された慎也は去って行った車をいつまでも睨み続けていた。




