31.ためらい その2
土曜日の朝。
あのキス以来、慎也とは結局一度も連絡を取らなかった。
リコとしては、何か連絡がないかと内心期待していた。
だが、それは無理と言うもの。
慎也はリコの気持ちを確かめないまま行ってしまったのだから。
そうか、逆に自分がかければいいのか。
リコは単純に思いついた。
でもそれは、彼を男として?
先日のキスを思い出してしまい、やはりリコにはまだ恥ずかしくて出来なかった。
やはりいつもの友達モードでしゃべろうと決めた。
(まだ出勤前だからかけても大丈夫よね?)
ピロロロ…。
慎也の携帯が鳴った。
「もしもし?」
『おはよう、元気だった?』
慎也が出るとリコはいつもの調子でしゃべった。
「ああ」
『忙しかった?』
「まあな」
今週は昔の後輩のことや仙崎のことが、いろいろ度重なっていた。
だが、そんなことでリコを心配させる訳にはいかない。
『じゃあ、午後から出るから』
「うん」
慎也の返答が素っ気なく、リコはちょっぴり不満げだった。
不満というか、少し不安になった。
あの夜のキスは、彼は本気だったのだろうか?
リコにすれば、約一週間ぶりのバイトだった。
だが、今週は翌日に一樹との約束を入れざるを得なかった。
だから今週会えるのは今日1日だけだった。
しかし、仕事上の事務的な話と近藤が入っての当たり障りのない会話ばかりで、二人の間は進展はなかった。
久しぶりに会ったのに。
リコは不満を隠せなかった。
もうすぐ営業終了。
明日は一樹との約束がある。
スタッフ全員が片付けをしている時、リコは思い切って慎也のそばに行って話しかけた。
「あの…明日は私来ないから」
それに対して慎也は
「お前土日働き詰めだったからいいんじゃねえ?ゆっくり休めよ」
と答えた。
(それだけ?)
リコは、内心非常にがっかりした。
もう少し寂しがってくれるかと思っていたのに。
でも、それを言う勇気がリコにはなかった。
「お疲れさま!」
リコは少しだけ乱暴にそう言うと、ゴミとチリトリを持って先に上がった。
慎也は訳が分からず、リコの行った方を見つめた。




