23.幸福 その5
翌日。
リコはいつものデスクワークについていた。
慎也とはしばらく離れる生活が続く。
しかし、リコには慎也の柔らかくて温かい唇の感触がいつまでも残っていた。
その感触が、こうして離れていても彼と繋がっていられるような気持ちになれた。
「リコ〜何ぽーっとしてるの〜?」
慎也との余韻に浸りすぎて、背後にハナが居たことに気が付かなかった。
「わっビックリした」
「ビックリしたのはこっちだよ。嬉しそうな顔して、何か良いことでもあった?」
ハナにはリコの気持ちが完全に見透かされていた。
「さては、沢田さんと何か良いことあった?」
「え?まあ…」
そう言えば、ハナは慎也のことはまるっきり知らないのだ。
当然、自分が慎也と会っていることも。
『愛してる…』
少し吐息混じりの、低くつぶやいた慎也の声を思い出した。
あの夜、彼は私の気持ちを聞かないまま、行ってしまった。
私も素直に自分の気持ちを伝えるべきだろうか?
だが…
ピロリーン。
リコのメール着信音がした。
沢田からだった。
「今度の週末、一緒に食事しませんか?」
リコはまだ、沢田とも交際を続けていた。
(私ってやっぱり二股かけているのかな?)
そんな話は、慎也にも一樹にも出来る筈がなかった。
―幸福 了―




