18.悪夢 その6
精神安定剤が効いてきたのか、慎也の精神状態はだいぶ落ち着きを取り戻してきた。
夕方早退してから、睡眠導入剤を服用した。
そしてどれくらい眠ったのだろうか。自分でも検討がつかなかった。
だが、落ち着きを取り戻したと言っても、虚無感が消えた訳でも、レイプの傷が癒えた訳でも全くなかった。
慎也は、窓の外を見た。
今自分がいるアパートの小さな窓から、月明かりが射し込んで来た。
窓は上窓と下窓に分かれおり、月明かりが差し込むと、丁度部屋の中で十字架の形を作った。
慎也は、ぼんやりと十字架になった窓の影を見つめた。
十字架は罪の象徴。
俺の過去は、俺の背負うべき十字架なのだろうか?
慎也は自問自答した。
その時、慎也の携帯の着信音が鳴った。
080で始まるその番号には、見覚えがない。
だが、もしかしたら…。
慎也はゆっくりと電話を取った。
「はい」
「尾藤くん?」
いつもと呼び名は違うが、電話口の女の声には聞き覚えがあった。
「リコ?」
「ごめんね、こんな時間に」
「いや、大丈夫」
時計を見たら、夜の11時を少し回ったところだった。
そう言えば、慎也はリコに携帯番号は教えてだが、リコの番号は聞いていなかった。
「今日、仕事途中で帰っちゃったから、心配になっちゃって」
リコの声を聞きながら、慎也の長めの前髪に隠れた目から、無意識に涙がこぼれ落ちた。
「尾藤くん…泣いてる?」「え?んなワケないじゃん」
慎也は悟られまいと、わざと笑ってウソをついた。
まだ、リコの前では自分をさらけ出す訳にはいかなかった。
「なんだあ、良かった」
リコは安心したように答えた。
「明日は仕事大丈夫なの?」
「ああ、心配かけて悪かったな。今日仕事どうだった?」
「うん、普通に無事に終わった。大丈夫だから」
リコと話しているうちに、慎也はいつもの自分を取り戻して行った。
「来月の日曜、どっか一緒に行かね?」
「え?」
慎也は、今日近藤が言ってた誘う話を思い出した。
「バイクのニケツだと、高速乗れねえし、あんま遠いとこは行けねえけど」
「うん、行く行く!」
電話の向こうから、リコの弾んだ声がした。
―悪夢 了―




