16.悪夢 その4
それは、慎也が丁度中学生になったばかりだった…。
ある日、サッカー部の部活から戻った慎也は、家にいつもいるはずの母親と妹がいなくなっていたのに気付いた。
「戻ったのか?慎也」
居間の方から、父親の声がした。
いつもいない父親が、珍しく家にいる…
いつも家族をほったらかしにしているクセに…
父親の声を聞き、慎也は不快になった。
居間では、洋酒のビンがあちこちに転がり、父親は酒にふけっていた。
「母さんと里菜は?」
慎也は怪訝そうに尋ねた。
「出て行った…」
「え?」
「今日、母さんとの離婚届けを出してきた」
慎也は耳を疑った。
「離婚?」
「親権は母さんが里菜をとり、私がお前をとった」
「ちょっ…どういうことだよ!親権って、俺何にも聞いてねえよ!」
突然のことに、慎也は動揺して思わず叫んでしまった。
「慎也、私はお前が必要なのだ。お前には将来私の会社の後を継いで欲しい」
慎也には答えず、父親が言った。
「なんで勝手に決めんだよ!父さんはいつだって、俺達の話なんて聞かないんだから!」
「一家の主たる私が決めて何がおかしい?息子の分際で親に口出しする気か?」
「…」
父親の返答に言い返せず、慎也は黙って睨み付けた。
「お前は、だんだん比登美に似てきたな」
急に父親は慎也を見つめて言った。
「母さんに?」
慎也はワケが分からなかった。
「性格がわがままなところも、そして、その美しい顔立ちも…」
何故そんなことをと思う慎也をよそに、父親は慎也の、まだ幼さが残る顔をこちらに向けた。
そして、そのまま父親は慎也に口づけをした。
信じらんない父親の行為に、慎也は一瞬頭が真っ白になった。
「父さん…?」
ショックを受けて固まる慎也の身体を掴むと、そのままベッドルームに連れて行き、両腕をねじあげて、慎也の頭を押さえつけた。
そして、着ていた制服のシャツをひきちぎった。
「父さん、嫌だ!やめて!」
慎也は状況を知り、激しく泣き叫んだ。
だが、若い頃少々柔道の経験のある父親にしっかり押さえ込まれ、慎也は身動きが全く取れなくなってしまった。
「比登美は、母さんは私を見捨てた。私にはもう、お前しかいない!」
そして、女性が受けるような身体的行為をさせられたのである。
「父さん!あ、やめて!!やめろ!!」
叫んだところで慎也はガバッとベッドから起き上がった。
「夢…?」
夏が近づき、慎也は上半身裸で寝ていた。その身体はびっしょり汗まみれになっていた。
胸元には、リコからのクロスが鈍く光った。
嫌な夢、悪夢だった。
慎也は洗面所に行き、水道の蛇口をひねり、精神安定剤を水と一緒に服用した。
蛇口から流れる水の音と共に、慎也の精神状態は徐々に落ち着きを取り戻して来た。
『性的虐待からくるPTSDですね』
数年前に行った精神科医から、そう診断された。
自分が父親からレイプをされたことを慎也は、精神科医にだけは、告げていた。
そして、時々起こるフラッシュバックを軽減するために、数年前から精神安定剤と睡眠導入剤を服用しているのである。
あの日から、もう十数年。
だが、慎也のえぐられた心の傷は癒えることはなかった。




