12.運命 その3
数日後。
今日はリコたちの会社の給料日である。
「待ちに待った給料日だね〜、どっか食べに行こうか」
そう嬉しそうに話しかけたのは、同僚のハナだった。
「そうだねー」リコも嬉しそうに答えた。
しかし、渡された給与明細を見て、リコは現実に引き戻され、ため息をついた。
「今月も生活費考えたら、ギリギリだなぁ…」
どこもそうだが、この不況のご時世、リコたちの給料は横ばいである。
実家に頼らず一人暮らしのリコにとっては、決して余裕のある金額ではなかった。
「あーあ、これじゃあ新しい服とか遊びに行ったりとか出来ないなあ」
やはり休日、少しバイトをしようかと考えた。
バイトと考え、リコの頭にパッとアイディアがひらめいた。
(そうだ…!)
土曜日、慎也の勤めるバイクショップ。
「今日から休日だけアルバイトに入ることになった本城さんだ」
店長の紹介に慎也と近藤は共に驚いた。
慎也は呆れたように、近藤は嬉しそうに、である。
「彼女には、日頃の仕事のスキルを生かして、商品の商品管理のアシストとかをお願いする。社員の尾藤ちゃんとコンちゃんは本城さんにバイクの車種のことと、管理と説明を頼む」
店長は慎也と近藤に説明をした。
「週末はお客さんも増えるし、頼りにしてるよ」
「はい」
店長に言われて、リコはやる気満々の返事をした。
慎也の心配をよそに、リコは店長や近藤から仕事の説明を受けて、ぎこちないながらも一生懸命聞きながら仕事を覚えようとしていた。
そんなリコの姿がちょっぴりまぶしく、慎也には感じられた。彼女の仕事に対する一生懸命な姿が可愛く見えた。
納入商品のチェックをしているリコのそばに、慎也が「手伝ってやるよ」とやって来た。
しゃがみ込んで、段ボールの中の商品チェックをする慎也。男らしい広い肩幅と程よく筋肉のついた二の腕と背中にちょっぴりリコは見とれた。
伝票に目を通す伏し目がちな目線が慎也の顔立ちの美しさを更に引き立てた。
「あんまり無理すんなよ」慎也はリコに言った。
自分のことを心配してくれるんだ…。リコの頬が思わず染まる。
「平日だって会社勤めなんだろ?土日の1日くらい休んだ方がいいぞ」
「でも、面接で働けるって言っちゃったし」
「会社にはバレねえのか?」
「大丈夫だよ。都内に住んでる友達なんか、毎日夜コンビニでバイトしてるもん?それに今はサラリーマンだって副業しないと生活出来ない時代だしさ…」
リコの話を聞いて慎也は神妙な面持ちになった。
「サラリーマンも、大変なんだな」
「シンちゃんだってサラリーマンでしょ?」
リコのイタズラっぽい返答に慎也は「まあ、そうだよな」というしかなかった。
そんな状況でもいつも明るいリコ。
いつまでも過去を引きずる自分とは、まるで光と陰のような違いかもしれないと、慎也は密かに思った。
「あ、そうだ、私お礼持って来たんだ!」
そう言うと、リコは一瞬ロッカーの方へ走って行った。
何のことやら訳が分からない慎也をよそに、リコはこの間ショッピングモールでウキウキ気分で買った黒っぽい小さな袋を手にして来た。
「これ、この間のお礼。あなたに似合いそうって思って」
リコは慎也に黒っぽい袋を手渡した。
きょとんとする慎也にリコが「開けて見てみて」と催促する。
「アララ〜ナニナニ〜?プレゼントぉ!?」
そう言って横から首を突っ込んだのは近藤だった。
出てきたのは、男性向けのクロスのネックレスだった。
「どうかな?」
「良いんじゃねえ?てか、こんな良いのシンには勿体ねえよ!」
慎也は近藤の物言いに一瞬ムッとした。
「勿体ないかどうか付けてみねえと分かんねえだろ?」
慎也は半ばヤケになって答えた。
慎也はクロスのネックレスを手に取り、ふて物憂げな表情になった。
「クロス、十字架か…今の俺には合ってるかも知れねえな…」
慎也は自嘲気味につぶやいた。
「え?」
リコには慎也の言葉の意味を、この時はまだ理解出来なかった。
近藤は少し沈んだ表情で慎也を見つめた。




