10.運命 その1
慎也はようやく、店に戻って来た。
辺りはすっかり日が落ちて暗くなってしまった。
「遅かったじやねえか?」
店にいたコンがバイクから降りた慎也を出迎えた。
「何かあったのかよ?」
コンが尋ねた。
「別に」
慎也は素っ気なく答えた。
コンは、慎也の表情が冴えないのを鋭く勘ぐった。
「顔色冴えねえぜ?どうしたんだよ?」
「何でもねえよ」
慎也はまた、突き放して言った。
コンは心配そうに慎也を見つめた。
「高校ン時から、お前って、いつも悩みを一人で抱えちまうよな。何でいつもそうなんだよ?」
「コンには関係ねえだろ!」
慎也は思わず怒鳴ってしまった。
はっと、他の従業員や客の視線が自分に集まったのに気付き、慎也は気まずそうになった。
「ちょっと、便所行って来る…」小声でそういうと、慎也は店の奥に引っ込んだ。
コンは、心配そうに慎也を見つめた。
「いっつもそうだよな…」コンは小さく呟いた。
その時、けたたましいマフラー音を響かせて、一台の原付が店の前にやって来た。
「近藤センパーイ!お久しぶりッス!」
コンこと近藤はマフラー音の主を見つけて呆れた顔をした。
「んだよ?ノリオじゃねえか!」近藤は言った。
「てか、お前この間うちに修理きたばっかじゃねえかよ!」
「そんな高校の後輩に冷たいこと言わないで下さいッスよ!」
巻き舌口調で何かと語尾に「ス」を付けたがる今泉ノリオは、今どき流行りのヒップホップ系ファッションで終始身体を揺らしている全く落ち着きのない男だった。
「マフラー変な音して調子悪いんスよ」
「お前のいじり方と乗り方が悪いからに決まってんじゃねーか!」
近藤は内心(早く帰んねーかな)と思いながら、ノリオのバイクを見てみた。
「それよりさっき、尾藤先輩と仙崎先輩、メチャクチャヤバかったッスよ」
「ヤバい?」
近藤はノリオの言葉に反応した。
「二人してマジ睨み合いしてたんすよ。オレマジ怖くて近寄れなかったッス!」
「…」
近藤の表情が険しくなった。
(シン、あいつ…)
「それよりきーて下さいよー!こないだやったオンナにオレの何が小さ過ぎるって、オレめっちゃショックだったッスよー!」
聞きたい話題からはずれて来たので、近藤は適当にあしらった。
「ノリオ、良くなったぞ。メンテ代はいいから帰れ!」
近藤はそう言い捨てて、店の中に入った。
男性用トイレに行くと、慎也が、バイクを拭き取るウェスを流しで洗っていた。
「なげえ便所だと思ったぜ」
近藤は慎也と背中合わせの用足しに立った。
慎也は無言のままだった。
「仙崎に会ったンだってな」
二人はしばらく無言だった。
「絡んで来たのは向こうだ」
「お前疑ってるわけじゃねえよ。仙崎、アイツのやることの汚さは俺だって良く知ってる」
「…」
「高校からの親友じゃねえか。何で教えてくれねえんだよ?」
ずっと黙っていた慎也が口を開いた。
「これは、俺の問題だ。コンを巻き込みたくない…」そう言うと、慎也はウェスを入れたバケツを持ってトイレから出ていった。
近藤は慎也が出ていった方を見つめた。
「カッコ付けてんじゃねえよ…」
近藤の目は心配そうであった。




