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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
108/110

107.永遠:プロローグ


数週間後――


「イテテ…!」

「もう、無茶しないでよ」毎日のように見舞いに来ていたリコは、無理矢理起き上がろうとする慎也を嗜めた。


「骨もだいぶ付いたし、起きても良いって医者だって言ってたじゃん」

「だからって、無理したら、また悪くなるんだから!」


リコの咎めも聞かず、慎也はまだ包帯が取れ切れていない身体を引きずりながら、あるところに向かった。

「もう、そんな痛い思いしてどこ行く気?」

リコは怪訝な顔で慎也の後に着いて行った。


それは、病棟から少し離れたところにある、小さなキリスト教の礼拝堂だった。

中央には、今度2人が挙式をあげる教会のものより、二回りくらい小さなキリスト像が掲げられていた。


「これ……?」

リコは慎也の視線の先にあるキリスト像を見つめた。


慎也がキリスト像にこだわることをリコは知っていたが…。


リコの脳裏にあの日の残虐な光景が蘇った。


吊り上げられて、ただひたすら拷問を受けたことを。


凍り付いた目でリコはキリスト像を見つめる慎也を見つめた。


あんな足がすくむような体験をしたというのに、彼は平然としているように見えた。



「慎也……」

「ん?」

「怖くはなかったの…?」「何が?」

「私の所為で、こんな目にあったこと…」


慎也は像を見上げたまま、しばらく黙っていた。


やがて柔らかい横顔を見せながら言った。

「怖くなかったって言ったら嘘だな。むしろメチャメチャ怖かった」

「慎也……」

「あの時、もう死ぬんじゃないのかとまで思ったし……」

罪悪感で俯くリコとは対照的に、慎也の顔はどこか晴れ晴れとしていた。


「でも、これで俺の汚れた過去が帳消しに出来るなら安いって思ったよ」

「帳消し?」

意外な返答にリコは目を丸くした。


慎也はまだ包帯の取れない腕をさすって、自嘲するように苦笑いを浮かべた。

「俺は勝手なことばっかやって、いろんな人や物を傷つけてきた……。仙崎とつるんで、ヤクザにまで片足突っ込みかけて、サイテー最悪な奴だった……」

「……」

「そんな俺が、こんな目に遭ったのは、当然の報いだよ」

「……」

「だから、これで罪の償いが出来るなら、むしろ何だかスッキリした気分になれる気がした……」

慎也は改めてキリスト像に目をやった。


「ただ、キリストが人間の為に死んで許されたのに比べれば、俺は自分自身の為だから小さいよな」

そう言って慎也はまた自嘲気味に微笑んだ。



慎也が見ているのは明らかに自分の視点とは違う。



自分を庇ってくれようとしながら、慎也はこれまでの、そして今の自分を見つめていたのだ。


ずっと抱えていた彼の中の黒い物を、自分自身が鞭打たれるこれで、流そうとしたのだろうか。


リコは、無意識に慎也に寄り添い、慎也の片方の手を握りしめた。


「私が傍にいてあげる…、ううん、傍にいても良い?」

慎也は無言でリコに頷いた。


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