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RISKY―傷だらけの十字架―  作者: 桜井敦子
107/110

106.受難その10

包帯に傷だらけの姿で眠る慎也の姿を、リコはじっと見つめていた。



「リコ、そういえば、慎也さんのズボンのポケットからこんな紙切れが出てきたって……」



リコはハナからクシャクシャになった白い紙切れを受け取った。



それは、慎也の心を引き寄せた、聖書の一句がかかれたコピーだった。

『彼は軽蔑され、人々に見捨てられ多くの痛みを負い、病を知っている。

彼が担ったのはわたしたちの病、

彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに


彼が刺し貫かれたのはわたしたちの背きのためであり

彼が打ち砕かれたのは

わたしたちの咎のためであった。

彼の受けた傷によって、わたしたちはいやされた。


苦役を課せられて、かがみ込み

彼は口を開かなかった。

捕らえられ、裁きを受けて、彼は命を取られた。』



リコはじっと、慎也が大事に持っていた紙切れを見つめていた。




――彼は何故、自分をここまで傷め付けなければならなかったのか――。



慎也は過去の洗い浚いを、全て自分に話してくれた。



父親から性的暴行を受け、親子間に確執が出来たこと。

その傷を埋めようと不良グループや暴走族、愚連隊で幅をきかせようとしていたこと。



だが慎也は、所詮悪に染まり切れない自分に気が付いた。



相棒の仙崎との確執をきっかけに、まっとうな道を選んだが、それでも心のどこかに過去へのわだかまりを拭えずにいた。



イケメンとも言える美しい容姿の裏には、暗く辛い過去を抱えていた……。



軽い気持ちで慎也と関わったリコであったが、彼がそんな重い十字架を背負っていることは、知る由もなかった。



なのに、慎也はこんな自分を誰よりも愛してくれた。


自分の、取るに足りないようなわだかまりも、彼は快く受け入れてくれた。



そして、それ故に、彼は自分自身を傷つける道を選んでしまった。



愛というには余りにも重過ぎる十字架――。



リコの目から涙がこぼれ落ちた。

「私の、所為だ……」

「リコ…?」

ハナが不思議そうにリコの顔を覗き込んだ。



「慎也が、自分を傷め付けたのは私の所為だ……。私が、慎也をこんな目に遭わせた…。私を助けようとして、慎也は死にそうになって……」

「それは違うよリコちゃん!」

嗚咽を始めたリコに近藤が思わず叫んだ。


「リコちゃんは、ホントにシンにはなくちゃならない存在だったんだよ!シンはホントにリコちゃんが大好きで、やっとアイツが幸せになれる道を見つけたんだ!シンだって、そんなに自分を責めるリコちゃん見て喜ぶはずないだろ!?」

「でも……!」

「コンの言う通りだよ…」

リコと近藤のやり取りに力の弱い声が口を挟んだ。



「!?」

驚いて全員が声の主の方を見た。


「シン!?」

慎也が弱々しく目を開け、天井を見つめていた。


「目が覚めたの?」

「存在だったとか、俺が悲しむとか、まるで死んだみたいな言い草だよな……」

弱いながらも、慎也は皮肉混じりに言った。



リコは涙目で慎也を見つめた。


「リコ……」

「?」

「自分を責めるのはやめろ……」

「でも……」

「俺は……なんだかスッキリした……」

「……?」

「こんなボロボロになって、死にかけたのに、何かすごい気持ちが晴れた気がする」

天井を見つめる慎也の目は、確かに何の惑いも憂いもない、澄んだ目をしていた。


リコはそんな慎也の顔を不思議そうに眺めていた。



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