105.受難その9
叫び、疲れ果てたリコの耳に、外から微かにサイレンの音が響くのが聞こえた。
「サツか!」
仙崎とその一行は足早に去って行った。
鎖に両腕を吊されたままの慎也は、暗くて表情は分からなかった。
ただ、ぐったりと死んだように動かなかった。
リコはシルエットとなっている慎也の姿を、ただ茫然自失で見つめていた。
「リコ!」
「シン!」
聞き慣れた男女の声が倉庫の中に響き渡った。
リコの目には親友のハナと近藤の姿がはっきりと見えた。
リコと慎也の姿を見つけた二人はその場で思わず立ちすくんだ。
「オイ!シン!!」
「リコ!大丈夫!?」
ハナは泣き叫ばんばかりに、リコの元に走り寄って来た。
「私は、大丈夫だけど……」
リコの見つめる先では、近藤が慎也を必死で鎖から外していた。
両腕の鎖が緩むと、ドサリと慎也の身体が崩れ落ちた。
「シン!しっかりしろ!シン!!」
慎也は完全に気を失っていた。
顔と身体中は、あちらこちら傷とあざだらけだった。
「……ったく!何で何も言わねえで一人で乗り込んでったんだよ!」
ぐったりとした慎也を目の前にして、近藤は悔しさをにじませながら叫んだ。
リコもハナも、ただじっと動かなくなった慎也を見つめるしかなかった。
*******
近くの総合病院へ救急車で運び込まれた慎也は全身包帯だらけで病室のベッドに横たわっていた。
ハナと近藤が傍らで見守っているところへリコが入って来た。
「どう?」
ハナが心配そうに尋ねた。
リコ自身は無傷だったが、妊娠中ということで、念のため検査を受けていたのである。
「お腹の子は、大丈夫だった……」
リコの言葉にハナと、その場にいた近藤はホッと胸を撫で下ろした。
「スミマセンが、本城慎也様のご家族の方はいらっしゃいますか?」
病室に入って来た看護師に呼ばれて、リコは思わず辺りを見回した。
ハナはそんなリコの脇を軽く突いた。
「家族ったらアナタしかいないでしょ?」
「失礼ですが、奥様でしょうか?」
看護師に言われたリコは『奥様』と呼ばれ、何だか恥ずかしくなった。
(私が、慎也の奥さん?)
だが今は酔い痴れている場合ではなかった。
「は、はい……」
看護師に案内されてリコは診察室に入って行った。
「全身の打撲と大小の傷が多数に加えて、肋骨と鎖骨、左腕の骨にひびが入ってますね。全治3ヶ月というところでしょうか」
慎也のエックス線写真を見せながら、医者はリコに説明した。
「今は身体中あちこち痛みがあると思いますから薬で眠ってもらっていますが、あと少しで目覚めると思います」
やはり、慎也は相当の重傷を負っていたようだった。
結婚式の予定は、丁度3ヶ月後。
それまでに治ってくれれば……。




