103.受難 その7
慎也の携帯にハナから電話があったのは夕暮れも押し迫ろうとしていた時だった。
最初は登録されていない番号で取るのをためらったが、何か不吉な予感がして出てみた。
『慎也さんゴメン、近藤くんに番号教えてもらったんだけど、リコがヤクザ風の人にいきなり捕まって…』慎也にも聞き覚えのあるハナの声は上ずっていた。
慎也は電流が走ったかのように、ハナの言ってることが何なのか理解した。
「リコは無事なのか!」
慎也の声は既に怒りの頂点に達していた。
『分からない。ただ、近藤くんも今追っかけに行ってくれたから…』
ハナは半分泣きながら慎也に訴えた。
「分かった。今から俺も行くってコンにも伝えといてくれ!」
電話を切ったあと、リコの携帯にかけてみた。
案の定出なかった。
それを確認すると慎也はもう一つの番号にかけた。
それは普段着信拒否をしている仙崎の番号だった。
呼び出しが鳴ると間もなく仙崎が出た。
『よう、やっぱり自分からかけて来たか…』
電話口の仙崎は想定した通りだと愉快そうに笑って言った。
「てめえ…!」
普段はもう乱暴な言い方を控えている慎也だったが、今は理性などとうに失っていた。
電話口でクククと笑った仙崎は、
『俺が手段を選ばないのはてめえも良く知ってんだろ?取り敢えず、お前の女は預かってるから、この間お前の舎弟の墓場になったとこまで来い』
慎也はスマートフォンを持っている手をぶるぶると震わせた。
リコは今妊娠中の身の上。
何かあったら、普通以上のダメージを追ってしまう。
リコの身に、そしてお腹の子供にもしものことがあったら……。
「おい!本城!何処へ行く!」
慎也はもう仕事どころではなかった。
急いでスタッフルームを出ると、いつものホンダのバイクに跨り、夕暮れの幹線道路を猛スピードで走らせた。
ヘルメットの奥の目は怒りに血走っていた。
その左頬にはまだ完治しない切られた痕がくっきりと残っていた。
リコを、仙崎の魔の手に渡すわけにはいかない。
(リコ、無事でいてくれ…!)
慎也はもう、なりふりを構っていられなかった。




