99.受難 その3
「お腹の赤ちゃん、順調に育ってますから大丈夫ですよ。つわりは無理しないで、楽に過ごすようにして下さい」
リコの腹部に超音波を当てた女医が優しくリコに言った。
診察ベッドに横になるリコと、傍らに付き添った慎也の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「とりあえず一安心だな」「午後結婚式の打ち合わせ前にお昼食べてくでしょ?」
「うん」
病院の通路を慎也はリコの手荷物を全て持ち並んで歩いた。
今日はたまたま遅番出勤の慎也だったが、リコの妊婦健診には必ず付き添ってくれた。
「仕事、続けてて大丈夫かよ?」
「こんなに早く産休取っちゃったら、職場復帰の前に辞めさせられちゃうもん」慎也は心配そうにため息をついた。
「冷たい会社だな…」
「うちに限らず、どこだってそうだよ。大丈夫よ、前よりもつわりは落ち着いたし、もうじき安定期にも入るから」
慎也は少しだけ安心した顔になった。
「けど、調子に乗って重いもの持ったり自転車乗ったりすんなよ。リコならやりかねねえからな」
慎也は少しからかうように言った。
「慎也さんって見かけによらず口うるさいんですね」リコはわざと馬鹿丁寧に膨れっ面をして見せた。
「当たり前だろ?大事なリコの身体に何かあったら取り返しつかないんだから」慎也は予想外に真顔で答えた。
真剣に自分のことを考えてくれている慎也の気持ちがリコには何よりも嬉しかった。
幸せという言葉があるのなら今が正にその頂点にあるのかも知れないとリコは思った。
午後からは休みを取った慎也と共に結婚式の打ち合わせに出掛けた。
式場は、慎也がリコにプロポーズをした、かの教会だった。
「じゃあ式の日取りと形式はこんな感じで」
「はい」
式と披露宴は金額を押さえてシンプルなものにした。
互いの親族は共に問題を抱えており、慎也に関しては妹の里菜を通じて母親を呼び寄せ、父親は拒否の方向らしい。
リコは一応両親に伺いを立てて出欠は自由に選んでもらう。
そして友人のハナをはじめ、仕事仲間を招待するというものになった。
「何とか式の段取りも順調に進んでるし、結婚式が待ち遠しいなあ」
リコは幸せいっぱいの顔で言った。
「けれど、俺タキシード似合うかな?」
「絶対似合うわよ!私は慎也のタキシード姿楽しみだもん」
「リコの花嫁姿には負けるけどな…」
自分を卑下する慎也をリコは全力で否定した。
「私にとって慎也は王子様だよ!」
「王子?俺が!?」
信じらんないという顔の慎也にリコは構わず続けた。
「そうだよ。慎也は私にとってかけがえのない大事な王子様だもん」
リコの言葉にどう答えて良いか分からず、慎也は照れくさそうに鼻の頭をかいた。
「じゃ、期待裏切らないようにしなきゃな…」
そう言うと、慎也はリコを優しく抱き締めた。
リコは慎也の厚みのある温かい胸元に幸せを噛みしめるように身体を預けた。




