第一話 「君はどうしたい?」
長いです、異世界に行くまでが。
「明日から3連休ですかあまりハメは外さないで下さい」
『えー!』
「・・・」
「・・・そうは言っても気が抜けちゃうわよねー」
『そうだそうだー!』
「なのでー、みんなのために宿題をだしちゃいまーす」
『えぇー!?』
『マジかよぉ!』
「・・・」
どうでも良かった。どうせ文句を言ってもやらない奴がほとんどなんだ。
そんなことはどうでも良くて、
(・・・早くしてほしいんだけどなぁ)
担任がプリントを配り終え、ホームルーム終了を告げる鐘が鳴る。
早々と帰路につこうとすると、
「おい、どこ行くんだよ」
「・・・」
「ほら、来いよ」
「・・・」
「早くしろ!」
腕を掴まれ、強引に立たされる。2人組の1人に鞄を持って行かれたため腕を振り払い走って逃げる事もできない。
「・・・はぁ」
彼の目指すスーパー倉本のタイムセールの時間が刻々と迫っていた。
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ドンッと体育館裏の壁に背中を押し付けられる。
「ッう・・・」
「たくよぉ、手間掛けさせんじゃねーよ?」
「ほんとほんと、”人殺し”がよぉ」
「・・・」
もう聞き慣れたフレーズが耳に刺さる。
「なぁ、例のモン持ってきたんだろうな?」
「・・・ない」
「あぁ?5万だよ5万!持ってこいって言っただろうがッ!」
ガッ!頬に鈍い痛みが広がる、鉄の味が口の中に広がる。
「おいおい、やめとけって、あんま殴ると俺たちまで殺されちまうぜ?ははっ!」
「おおこわ!ぎゃははっ」
「・・・」
「おい、財布出せよ」
「鞄じゃね?」
「っ、やめっ」
鞄を漁ろうとする2人を止めようとした時に彼女はやってきた。
「ちょっとあなた達!なにしてるの!?」
「げっ、逃げるぞ!」
「ちょ、まて置いてくなよ!」
僕の鞄を投げ出した2人は一目散に逃げて行く、角を曲がって姿が見えなくなり、
担任である沢田先生は僕の所までたどり着いた。
「あら、・・・御崎君だったのね」
「・・・ええ」
「大丈夫?・・・血が出てるじゃない!」
「大丈夫です」
「ちょっと見せ、きゃっ!?」
傷を見ようと近寄ってきた沢田先生が段差に躓いた、とっさに支える。
「!?、イヤ、触らないで!」
「・・・」
自分の体を抱え込み、身を引く沢田先生。
「・・・ぁ、ご、ごめんなさい」
「・・・いえ」
我に返ったのか、気まずそうにこちらを伺う先生。
「・・・」
「そ、それじゃあ!」
そのあと少し沈黙が続き、それに耐えられなくなった彼女はそそくさと去って行った。
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結局、タイムセールには間に合わず、とぼとぼと帰路についていた。
「・・・ただいま帰りました」
「頼んだ物は買って来たの?」
「・・・すいません」
「ったく、使えないわね」
「すいません」
パシン。乾いた音が響いた。
「なんでもかんでも謝れば良いと思ってんじゃないわよ、この、疫病神が」
バタン、ドアの閉まる音がする。保護者代わりである叔母に頬を叩かれたのだと気づいたのは、
彼女が家を出てから数分経ってからだった。
「・・・はぁ」
自分の部屋に戻り、制服のままベッドに倒れ込む。
(一体何が、・・・)
「ダメなんだろうなぁ」
僕の母は所謂”狂人”だった。僕が中学2年の時、母は父を刺し殺した。
僕はその場にいて、ただ呆然と眺めていた。
発狂した母が僕を手にかけようとするのにそう時間は掛からず、母の焦点の定まらない瞳は僕を捕らえた。
『ふふ、ふふふ』
『やめてよ、母さん』
『ねぇ、怯えないで、大丈夫よ。私もすぐに行くわ』
『嫌だ、あぁ、あぁあああぁあああ!』
・・・気がつくと、母の手の中にあった包丁は僕の手にあって。
僕の前には何も言わなくなった母が横たわっていた。
近所の人の通報で駆けつけた警官に僕は保護され、その後、裁判の結果は正当防衛により無罪。
包丁からは母の指紋が出たため、聞こえてきた悲鳴という隣人からの証言で、僕は自由だった。
だけど待っていたのは地獄だった。両親を失った僕は面識のなかった叔母に預けられた。
転校先では既に僕の噂が広がっていて、
『なぁ、アイツだろ?』
『あぁ、自分の親刺し殺したってよ』
『うわー、人殺しじゃん』
『『『人殺し!』』』
「・・・」
『ほんと、会社でも噂されて、アンタなんか引き取るハメになった私の人生はめちゃくちゃよ!』
「・・・」
『なぁ、御崎。あまりクラスメイトと関わりを持たないでくれるか?いや、俺もこんな事は言いたくないんだが保護者からクレームがなぁ・・・』
「・・・」
『なぁ、お前だろ人殺し』
「・・・」
『やめて、近寄らないで!』
「・・・」
『ねぇ、あの子でしょ?御崎さんちの。なんでも母親を刺したとか』
『怖いわねぇ』
「・・・」
「・・・ふぅ」
やっぱり、僕が悪いのかもしれない。
僕がもっと母さんを支えていれば、僕があのとき死んでいれば、いっそのこと生まれてこなければ。
「きっと、全部が間違いだったんだ」
そこで僕は意識を手放した。
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「うん・・・ん?」
目が覚めるとそこは白かった。周りには何も無くて、ただただ白かった、床も、壁も。
「・・・夢?」
「いいや、違う」
「!?」
いつもまにか後ろに一人の女性が立っていた。
「・・・あなたは?」
「くくっ思ったより冷静だな。やはり面白い」
楽しそうに笑う女性。腰まで伸びた艶やかな黒髪に、印象的な赤みがかった瞳。そして造形美とはこのことを言うのではないかと言うほどの整った顔立ち。
「僕は、死んだんですか?」
「いや?でもあながち間違ってはいない」
「?」
「次に朝日を浴びたとき、君は君であって君じゃない。御崎 遊璃くん」
「何故、僕の名前を?」
「君は、どうしたい?」
・・・質問には答えてくれない様だ。
「どういう、ことでしょうか」
「なぁに、お楽しみさ、次目覚めた時に記憶として君の中に入れておこう」
楽しそうにつぶやく。
「きっと、あなたの正体も教えてはくれないんでしょうね」
「いや?それは構わないが」
そう言って不適な笑顔を浮かべたまま彼女は僕を見つめ直した。
「私は創造主、まぁ、お前達曰く”神様”って奴さ。」
そこで僕の夢は途絶えた。
次回、彼は創造主の言葉の意味を知る事となります。




