えぇ、えぇ。わかりますわ。お可哀想に。あなたは大切にされる人間ですもの
「ここにこい! ラフィーティア!」
卒業のパーティーで。シャンデリアが輝き、優雅な音楽が流れる中、それに似合わぬ怒声が響いた。
婚約者であった殿下に呼ばれ、わたくしはそちらに向かって視線を向けます。音楽は止まり、人々は困惑しているようです。
わたくしは笑みを浮かべたまま歩を進めます。わたくしの動きに合わせて人が割れ、殿下のお姿が見えるようになると、殿下の隣には子爵家に引き取られたと言われる愛らしい少女が立っていました。
わたくしの姿が見えると、殿下は少女の腰のあたりを強引に掴み、自分の方へと抱き寄せました。あらあら、お可哀想に。
「殿下のお呼びに馳せ参じましたわ」
わたくしはそう言い、殿下に向かって礼をとります。婚約者同士といえども、王族と公爵令嬢。この国では、礼は欠かせません。
「貴様との婚約を破棄する! お前は、」
「承知いたしました。婚約破棄、しかと承りますわ」
あら? 殿下が何かおっしゃいかけていらしたかしら? まず了承を伝えねばと思って……わたくしとしたことが、失礼でしたわね。慌てて最大の謝罪の意を示すように深く膝を折ります。
「いやまだ話していたのだが。まぁいい。お前がここにいるルアナにした悪事はわかっている! まず、」
臣下が膝を折って謝罪の意を示したのに、そのことについて言及するなんて……器が小さい殿方と思われてしまいますわよ? そう思いながら、わたくしは再度言葉を被せます。
「まぁまぁ! 悪事なんて……身に覚えがないのですが、そもそもルアナ様? は、なぜそのような目に遭われたのですか? お酷い目に?」
そう首を傾げた後、ハッとしたように膝を折って見せました。えぇ、わざとではございませんわ。そういう意思表示と最大級の謝罪の姿でございます。
「白々しい! ルアナが私の寵愛を受けているからといって、ルアナに物を投げたり、ルアナを階段から突き落とそうとしたり、」
「まぁ!」
わたくしは、思わずと言った様子で声を上げ、慌てて口を抑えました。
「……何が言いたい?」
殿下がわたくしの反応にイラついたように問いかけます。わたくしは、口に手を当てたまま、目から涙を溢しながら答えます。
「ルアナ様……なんてお可哀想なのでしょう! 貴族子女として教育を受けながら、浮気相手にされてしまったのでしょう!?」
わたくしの反応に、ルアナ様も目を丸くします。意味がわからない、そうでしょう。平民と貴族では浮気相手になるという意味が変わってきます。
教育を受けた貴族にとって、例えその後結婚したとしても、浮気相手となることは恥でしかありません。己がそういう立場にしかなれないと立証するようなものですから。貧しい男爵家の三女や四女が正妻の許可を得て妾となる、それくらいしか貴族子女が浮気相手になることはあり得ません。
殿下はわたくしに婚約破棄を突きつけて、真実の愛としたいのでしょうが、我が公爵家に泥を塗るような行動をこのわたくしが許すとお思いでしょうか?
「いや、だからだな! 今ここでこうして!」
「その上!」
意図的に殿下の言葉を遮ります。わたくしは涙を流したまま、ルアナ様の手を取ります。
「ルアナ様は酷い目にお遭いになられたのでしょう? なんてお可哀想なのでしょう! 寵を与えておきながら、守っていただけなかったのね……。普通、殿方が浮気相手を囲うときは、当然にそれくらい対策なさるのに……」
わたくしは、ルアナ様の手を握りしめたまま、涙を溢します。
「いや、だから、それはラフィーティアがだな!」
「殿下のルアナ様への扱い、先ほどもお可哀想でしたもの……。強引に腰のあたりを掴まれていらしたでしょう? 跡になってないかしら? 痛みはない?」
わたくしはそう言って、優しくルアナ様の腰を撫でます。
「あ、あの、」
なぜか顔を少し赤らめたルアナ様を優しく抱き寄せて顔を顔に近づけます。
「おい、ルアナから手を離せ!」
「女性同士の友好もこのように殿下に嫉妬されて邪魔されたのかしら? こんなに可愛らしくて素敵なルアナ様がそんな目に遭うなんて……なんてお可哀想なのでしょう!」
わたくしはそう言って、ルアナ様の頬を優しく両手で包み、おでことおでこをくっつけます。
「あ、あ、あの、近、近、」
「ルアナが困っているだろう! 離せ!」
わたくしの腕を掴もうとする殿下の手をくるりと躱し、ルアナ様の腰を抑えてそのままダンスのように回ります。
「ルアナ様は浮気相手にされるようなお方じゃありませんわ。それに、そんな乱暴な扱いを受けるお方でも。あなたはもっと輝けるはずよ。わたくしが、そこまで連れて行って差し上げるわ」
わたくしがルアナ様に優しく微笑みかけると、ルアナ様の目は焦点が合わないように瞬きし、ポーッとしたまま小さな声で囁きました。
「め、女神様……」
「おい! ルアナを返せ!」
わたくしたちに向かって手を伸ばす殿下に対して、わたくしはにっこり微笑んだまま言います。
「殿下。でも、ルアナ様はわたくしのおそばにいたいとおっしゃっていますわ?」
ルアナ様を優しく抱きしめると、ルアナ様はわたくしの方を向きながら、コクコクと頷き続けます。愛らしい子。わたくしはそう思ってルアナ様の頭を優しく撫でました。ルアナ様はうっとりとした表情を浮かべ、わたくしを見つめています。
「ではごきげんよう? 殿下。ルアナ様はもっと大切にされるべきお方ですもの。わたくしが幸せにして差し上げますわ」
わたくしは笑って礼をとり、ルアナ様を携えて去っていきます。そんなわたくしの後ろをゾロゾロとついてくるのは自称親衛隊の皆様。
女神のようと評され、見た人々を天に昇るような気分にさせると評されるこのわたくしの顔、こういう場面でこそ活かすべきでしょう?
⭐︎
「ではルアナ様、わたくしの紹介する縁談か、わたくしの下で侍女として働くこと、どちらをご希望で?」
「も、もちろん女神様のおそばに!」
わたくしを見上げ、ポーッと頬を染めるルアナ様を見ながら、わたくしは思うのでした。
「あらあら、また信者を一人増やしてしまったわね?」
興味本位でこの作品のプロットをAIに渡して書かせてみたら、作者よりも描写がしっかりしていて若干心が折れた作者でございます。




