ホラー小説【僕に値段をつけてください。】
雨の降る裏路地、街灯の点滅の下で、僕は座り込んでいた。
通り過ぎる人々の靴音は冷たく、誰も僕の視線には気づかない。
「僕を誰か買ってくれませんか?」
ふと、一人の男が足を止めた。
高級そうなコートを着ているが、その目はどす黒い欲望で濁っている。
「おい、ガキ。お前に何かできるのか?」
僕は顔を上げ、精一杯の愛想笑いを浮かべた。
「健康です。力仕事も厭いません。よく働きますよ」
男は鼻で笑った。
「そんな奴は五万といる。最近じゃ女のアンドロイドの方が高性能だ。飯も作るし、夜の生処理だって文句一つ言わずにこなすからな。お前にしかできないことはないのか?」
僕は少し首を傾け、彼の耳元で囁いた。
「……気に入らない人を、消すことができます」
男の眉がピクリと跳ねた。
「ほう、暗殺か? それとも隠蔽か? おもしろい。じゃあ、やってみろ!」
僕は指をパチンと鳴らした。
「ほら、あなたの記憶が消えた!」
男の目が泳いだ。自分がなぜここに立っているのか、目の前の少年が誰なのか、その
表情から意味が失われていく。
「ほら、あなたの存在が消えた!」
街を歩く人々が、男の体を避けるのをやめた。肩がぶつかっても、誰も彼を認識しない。彼は世界の記録から、一文字残らず抹消された。
「ほら、あなたの人体が消えた!」
コートだけが地面に崩れ落ちた。中身は霧のように霧散し、血の一滴すら残っていない。
僕は誰もいなくなった空間に向かって、にこやかに微笑んだ。
「僕にしかできない特技ですよ」
……沈黙。
「あっ、消しちゃったから、もう答えられないや」
「いけねぇ値段、聴く前に消しちゃった」
僕は男の着ていたコートを拾い上げ、また冷たい地面に腰を下ろした。
雨はまだ降り続いている。
「誰か、僕を買ってくれませんか?」
今度は、ちゃんと僕を正当な高い値段をつけてくれる人がいいな。
ホラー小説【僕に値段をつけてください。】
完結




