空島へ連れて行きますわッ!
道中のPエリアで一度休憩を挟むことになった。
イザベラはヘルメットを外し軽快にバイクから降りる。
足裏で受けたアスファルトの硬さに一瞬驚きつつも、スカートの裾を手でパタパタと叩き塵を落とす。
「ふぅ、お疲れ。ってか久しぶりじゃん」
「お久しぶりですわ。こうして会うのも高校を卒業して以来ですわね」
「そうだね〜。ちょっと遺物研究が忙しくてねぇ〜」
「宜しかったのですか?」
「うん、研究室に籠ってるのも体に毒だからね」
「そう言ってもらえると嬉しいですわ」
顎辺りで切り揃えられたブロンドヘアーを揺らしながら犬山はコンビニを指差す。
「話は飯でも食べながら聞くよ」
◇◇◇◇◇
「はえ〜、なるほどね。それでダンジョンに行きたい感じなのか」
「……えぇ、そうなんですのよね」
「ってかウチくる?」
「そ、それは流石に迷惑になりすぎるかと」
「あたし掃除とか出来ないし頼みたいんだよね」
「わたくしも出来ませんわ」
「じゃ、今の話はなしって事で!」
「もうちょっと粘ってくださいッ!」
「あははは、冗談だってば」
胸をポコポコと叩かれている犬山は、ズボンのポケットから何やら小さい板状の石を取り出した。
石には方角を表すであろうN E S Wが刻まれていた。
「それは何ですの?」
「空の羅針盤」
「羅針盤?」
「そそ」
そう言うと、犬山は羅針盤を持っている手を空へと近づけた。
すると、上に上がるにつれて針がグルグルと回り始めた。
「この羅針盤はお父さんの蔵にあったやつでさ、『空の奏』って名前の遺物がある位置を指しているらしいんだよね」
「遺物を探す遺物とは珍しいですわね」
「ほんとそれ。それでさ、一人で追い続けるのも寂しくなってきたし……そろそろ助手が欲しいなぁ~って」
犬山はチラチラとイザベラに目配せを送る。
イザベラはにっこりとした笑顔を返した。
「ドラコさんとかに頼むのはどうでしょうか?」
「あいつはやべぇぇぇぇじゃんかッ!!!」
犬山は手に持っていたお握りをぐしゃりと握り潰した。
「そ、そうでしたっけ?」
「そうだよッ! 2050年にもなって西洋甲冑を着てる変態だよッ!?」
「まぁ、今は多様性の時代ですし……」
「しかもアイツ、最近日本刀を不法に所持してダンジョンに潜ったかなんかで警察にパクられてたんだよッ!?」
「ま、まぁ……多少大きい包丁だと思えば……」
「しかもパクられた腹いせに警察署に火炎瓶投擲して焼いたんだよッ!?」
「やべぇ奴でしたわねッ!」
「そうだよッ!」
イザベラは犬山の手からさり気なく握り潰されたお握りを掠め取る。
そして、切り口に則って袋を開けると、中身を強引に自身の口に押し込んだ。
「う、うめぇですわ」
「……え、」
犬山は何が起きたのかを理解できなかったのか、目を点にしながらイザベラを見ていた。
イザベラら口内のお握りをゴクリと吞み込むと、自身の胸に手を当てた。
「分かりましたわ。わたくしもお供しますわッ!」
「え、ごめん何の話してたっけ?」
「わたくしが犬山さんを空島へ連れていきますわッ!」
「え、急にワン○ース始まったんだけど」
◇◇◇◇
軽い雑談をしながら食事を終えると、犬山は自身のスマホに視線を落とした。
「よし、行こうか。他の人達は今日準備をして明日にはダンジョンに入るだろうから、今日中に軽く探索はしておきたいね」
「確かダンジョンにはボスがいらっしゃるんでしたわよね? 挑まないんですの?」
「うーん、二人じゃ人数的に危ないから取れそうな遺物をパクったらサッサと帰ろう。今はそれで十分でしょ?」
「……そうですわね。何をするにも、まずは人並みの生活環境を整えたいですわね」
イザベラはフルフェイスヘルメットを被り、犬山の腰に手を当てる様にしてバイクに跨る。
「じゃ、行くよ」
「ゴーゴーですわッ!」
寒風をきりながらバイクは目的地へと歩みを進めた。
◇◇◇◇◇
「す、凄く静かで怖い感じがしますわね」
「まぁ冬だからね。他の動物達も冬眠してて静かだからそう感じるんじゃない?」
山の麓には海が見える開放的な町が広がっていた。
全体的に建物の老朽化が進んではいるものの人口の規模は少なくはない。
しかし、不思議と人の気配を感じられなかった。
二人は装備を整えるべくバイクを駐車し、町の装備屋を探す事にした。
「人っこ一人見当たりませんわね」
「……これは流石に妙だね。まだ15時だよ?」
「確かに……神隠しみたいですわね」
「そういえば、過去にビル一棟まるごとダンジョン化したって例もあるからもしかして――――」
すると、前方にある電柱の後ろに何者かが居るのが見えた。
「犬山さん! 居ましたわよ!」
「お、よかった……え?」
電柱の後ろにいた何者かがゆっくりと姿を現した。
口からドロリとした緑色の液体を滴らせながら、その何者かは白目を剥きながらコチラへと歩いて来ていた。
フラフラと左右に揺れるその様はまるで――――
「ゾ、ゾンビですわよッ!」
「嘘でしょッ!?」
「どう見てもゾンビですわよッ!」
「いやそんなフィクションな存在が――――」
ゾンビの様な存在は両腕を地面と水平に上げ、手首から先を垂らしながらコチラへと進んでくる。
そして、緑色の唾液を吐きだしながら口を大きく開けた。
『ゾンビィィィィィィィィィ』
「ゾンビじゃんッ! 鳴き声で主張してくるタイプのゾンビじゃんッ!」
「やはりゾンビでしたわねッ!」
「イザベラッ! 一旦バイクまで戻るよッ!」
「分かりましたわッ!」
二人はダッシュで今来た道を引き返す。
すると、街の入り口を塞ぐようにして大量のゾンビが群れを成してやってきているのが見えた。
「くっ……まずい」
「犬山さんッ! あちらに逃げましょうッ!」
イザベラは大型ショッピングモール『ンオイ』を指差した。
「確かにッ!」
二人はダッシュで『ンオイ』へと向かった。
駐車場には幾つかの車が停車しており、中にはゾンビ化したのであろう住民の姿があった。
「イザベラ、体に異常はない?」
「今のところはありませんわ」
「おけ。イザベラが気が付かないのなら……住民の状態を見るに遅発性のウィルスって訳でもなさそうだね」
「速発性でも遅効性でもないのですか?」
「多分ね。考えられる可能性としては……接触感染か、もっと別の概念的なもの、それこそ遺物の力かだね」
話しながら走っていると『ンオイ』の入り口に到着した。
入り口の自動ドアは機能しておらず、木材などでバリケードが造られていた。
「他の生存者がいるみたいですわね」
「そうだね。ゾンビ化しなかった住民か、外から来た人達か……まぁ、どちらでもいいか」
後方を確認すると、ゾンビ達が列を成してぞろぞろと向かって来ていた。
「イザベラ、入れそうな場所を探そう!」
「分かりましたわ! テイヤッ!」
「え、」
イザベラは床に伏せ右拳を硬く握ると、眼前の木材バリケードに向かって突き刺した。
すると、障子を破くかの如く、いとも簡単に風穴が空いた。
風穴は人一人分の大きさがあり、匍匐前進の体勢であれば抜けられそうだ。
「これで行けますね!」
「ゴリ押しすぎるでしょ……」
「早く入りましょう!」
「そうだね」
犬山はイザベラを先に行かせると、後に続く様にして中へと入って行く。
◇◇◇◇
慎重に建物の中へと入ると緑色の液体が所々に付着しており、ゾンビの死体が幾つか転がっていた。
頭部が潰れた者、胸に穴が開いた者、首がへし折れている者と様々だ。
「……犬山さん」
「しょうがないよ。罪人でなくとも襲って来たのなら殺るしかない。ここは既にダンジョンの中だからね」
「――電波が届いてませんわ」
「そっちッ!?」
イザベラはスマホを手に、ピョンピョンと跳ねていた。
「これでは配信ができませんわね」
「この状況で……鬼かよ」
「吸血鬼ですわ」
「確かに」
すると、奥の方から何者かの足音が聞こえてきた。
犬山は犬耳に手を当て音を拾いやすいように構える。
「犬山さん」
「……音の間隔的に生存者だね。足音がならないようにゆっくり来てる」
イザベラは両手を開きながら口元付近へと持っていき、メガホンのように形作る。
「誰かいらっしゃいませんかーッ!」
掛け声を飛ばしてから10秒ほどが経った後、服屋の入り口からひょっこりと人の頭が現れた。
両の目がこちらを見ている。
「わたくしはイザベラ・スカーレットですわッ! 先程外部から来たのですけれど、ゾンビから逃げてるようにしてここへは来ましたわッ!」
イザベラの声を聞いていた何者かは、敵ではないと判断したのか頭だけでなく全身を晒しこちらへと歩いて来た。
長い黒髪に、薄茶色の瞳。背丈は150センチ程で年齢は10代後半程だ。
その少女は不思議そうな面持ちで二人を見ていた。
「……ゾンビ化してない?」
「えぇ、先程来たばかりでして」
「なるほど……とりあえずは一緒に来てください。奥の食料品エリアにみんなさん集まってますから」
そう言うと、黒髪の少女は二人を先導する様に歩き始めた。
「ところで、貴方の名前を伺っても? わたくしはイザベラで、隣の方は犬山さんですわ」
「私の名前は亞業神座衛門です」
「強そう過ぎますわね」
◇◇◇◇




