4月20日、ジャムと発砲音と女子大生
うち、折口透は働いている。深夜のコンビニで、田舎で、街外れ、故に客は少ない。と言っても、店長も、エリアマネージャーもいる。時間も時間で、十中八九、見回りなど無いのだけれども、店内でスマホを触ったりは無論NGである。
「でもそんなこと言って、透ちゃん、髪色染めてるよな、金髪に。今時珍しいが、エリアマネージャーはルールに定めてた」
「定めてるだけだよ。前会った時は何も言われなかった。笑顔で挨拶してくれさえしたさ、若き女子青年の些細な楽しみへの配慮よね」
「へぇ。まぁ、本当はあなたへの配慮ではなく、コンプライアンスへの配慮だろうけれど。マネージャーからしてみればルールを飛び越える若者は火の輪を飛び越えるライオンよりも余程恐怖の対象だと言うことだろう」
「ライオンより怖いって?」
「怖いよ、睨まない」
うちはむっすりとする。あくまで猫の様に、可愛らしく女子大生らしく。
隣の女子、間宮凪。同じ大学に通う大学生で、幼馴染でもある。
「暇だよね、いつも」
「そうだな、良いことだが」
「本当に暇だよね」
「20日働いて、ようやく気がついたか、透ちゃん?」
「気がついちゃったよ。だってスマホも触れないんだよ、客も来ないし。現代の監獄とはここのことを指すのかも知れない」
「懲罰の場所としての監獄は今は無いからね。確かにそう言う意味ではここはそうかも」
「だよね、うち賢いかも」
「飛躍がすごいな。本当にライオンよりも余程色々なものを飛び越えてる気がするよ」
「暇なんだよー、凪ー」
「じゃあ、今日の話をしよう。今日はどうやら『女子大の日』らしいという話」
「女子大の日?」
「女子大の日、1901年の今日4/20と言うのは初めて女子のみが通う女子大学へと一つの大学が初めて成った日らしいよ」
「女子大生っぽい、面白い話じゃん。まぁ、うちら共学の大学生だけどね。今時は専らの女子のみと言う女子大というのはお嬢様っぽい印象が先についてしまうし、うちはともかく凪は無理でしょ」
「私はそもそも女子大というものにそう言った偏見を持っていないから、私がどうであるという議論には意味はないと思うけれど」
「またまたそんな風に女子感を無くそうとしちゃって、一本2000円のちょっとお高めのシャンプーと、それよりも割高のオイルもつけてるのに」
「なんで知ってる?」
「なんででしょう」
「まぁ、良いや。殺すか」
「ちょっと待って、ちょっと待って、凪ちゃん。殺すのはちょっと待とうよ。良いじゃん良いことじゃん、髪のキューティクルを守ることは大事だよ。うん、そう、本当にそう。私も思う、キューティクルと法律だけは守らないとうん、それ以外はどうでも良いけどさー」
「何で死にたい?いかんせん、今は割り箸か、竹串しか手元に無いが」
「落ち着いて、落ち着いてよ。ほら、お客さん入って来たよゾロゾロと3人、大男達が」
「透ちゃん、殺す」
「いらっしゃませー、今日はどう言ったご用件で……」
発砲音。耳元で響くその音は、うちの後部にあるタバコのケースに当たり、半径1センチほどの穴を開けた。「手を挙げろ、用件なんて分かってんだろ」
「凪、今日ってなんの日だっけ?」
「女子大の日、それと郵政記念日、それかジャムの日とか……」
「おい、女2人黙れ。大人しくしてれば酷い殺し方はしない。ほら、お前らこの女2人を縛って、車に積み込め。おい、早く動け、何してる」
「何してるって、立ってるんだよ。後もう、少しで倒れるけれど、ねぇ透ちゃん」
バタンと音がして、男が1人。首から真っ赤な血と竹串を飛び出させて、倒れ込む。
「やっちまえ!!!」
リーダーらしき男の発砲音が空気を動かす。カウンターから乗り上げて、透は男の鳩尾に向かって蹴りを食らわせ、2人と距離をとる。
「そっちは任せたよ、凪ちゃん」
「おっけ、ねぇ、私達は穏便に済ませない?」
大声と共に振り回されたナイフが凪のそばを通る。
「私、割り箸しか無いんだけど」
リーダーの男は冷静に距離を取る。透はすぐさまそれを見計らって低姿勢で距離を縮めて、猫の様に男の手から拳銃を弾き落とし、後ろに回り込んで、首を締め上げる。
もがく男。筋力の差がある相手は絞められながらも、無理やりに動こうとする。男は、前方へ倒れ込み飛ぶ。そして、落ちている拳銃を拾い。透へと向けた。
バンっと発砲音。
それが鳴らなかった。
「仕方ないねー、今日は運が悪かったんだ。そんな気はしてたけど、やっぱり出ないよね。だって、今日はジャムの日なんだ」
手にはいちごジャムの瓶。透はそれを男の顔に思いっきり叩きつけた。
「ふぃー終わり、終わり」
「私も終わった」
「随分と血だらけじゃん」
「割り箸しか無かったんだ、仕方ないだろ。それに透ちゃんも真っ赤じゃ無いか」
「これはいちごジャムが付いてるだけ」
「それは怒られるな、店長に。店の商品使うのには厳しいからな」
「許してくれないかな」
「さぁ」
私達は働いている。辺鄙な田舎のコンビニで。殺し屋の身分を隠しながら、暇な毎日を過ごしている。たまにそう言う日もある。
毎日、その日のことを凪ちゃんに聞きながら。




