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2.魔力計測、まさかの「2」


 親父が謎の「股間の蒸れ」による精神的ショックからようやく立ち直った数日後。


 ラインハルト公爵家では、俺の……いや、この国の魔法経済の将来すら占うと言われる重要な儀式が行われようとしていた。

 

「魔力測定儀式」。


 この世界において、魔力の高さは単なる戦闘力じゃない。「信用残高」であり「人間の時価」だ。貴族の嫡男ともなれば、その数値一つで公爵家の株価すら変動する。

 最強の魔導師として名を馳せる親父の息子への期待値は、週刊少年ジャンプの大型新連載、その第一話アンケート順位くらいに跳ね上がっていた。


「さあ、アルフレッド。この魔晶石に触れるのだ。お前の未来を、その輝きで示してみせよ!」


 鼻息荒く俺の前に巨大な水晶――『国家級魔力鑑定石』を差し出す親父。

 周囲を見渡せば、おこぼれを狙う親戚連中から、特ダネを狙う魔法記者どもまでが、魔石板(魔法カメラ)を構えて手ぐすね引いていやがった。

 

(やれやれ、どいつもこいつも赤ん坊に期待しすぎなんだよ。俺はただ、静かにパフェの夢を見てたいだけなのに……)


 俺はため息まじりに、クリームパンのような手を冷たい水晶に乗せた。

 ……その瞬間。


 ピピッ、と電子音のような無機質な音が響き、水晶の深奥に血のような赤い数字が浮かび上がった。


『 2 』


 一瞬、広間が凍りついた。

 葬式でももうちょっと活気があるぞ、ってレベルの静寂。シャンデリアの魔力がチカチカと瞬き、誰かが飲み込んだ唾の音だけが響く。


「……2? 何かの間違いか? 単位は『万』か? それとも『億』か!?」


 親父が鑑定士の胸ぐらを掴み上げる。だが、鑑定士は真っ青な顔で首を振った。


「い、いえ、閣下。正真正銘、ただの『2』です。……一般市民の平均が『500』、家畜の豚でも『10』はあるのですが……その、アリのクシャミ一発分にも満たない魔力量かと……」


 鑑定士の言葉が、トドメとなって親父の顔を土気色に変えた。


 周囲の連中からは、さっきまでの称賛が嘘のような冷たいヒソヒソ声が漏れ始める。


「公爵家の恥だ」

「魔法貴族の血もここまで落ちたか」

「鷹が産んだのはただの生ゴミだったな」


(……おいおい、見くびってもらっちゃ困るぜ、有象無象ども)


 俺はおしゃぶりを噛み締めながら、冷ややかに周囲を見回した。


 俺の魔力が低い? 当たり前だろ。

 俺は『働かない』って決めたんだ。自分で魔力(ガソリン)を持ってたら、自分のエネルギーを使って動かなきゃいけねーだろーが。


 俺のポリシーは「他人のエンジンで目的地まで行く」。

 案の定、俺の視界には「現実」を嘲笑うメッセージが流れていた。



【警告:保有魔力が生命維持可能ラインを下回っています】

【解決策:固有スキル『厄災の転嫁』により、不足分の負債(エネルギー不足)を周囲から強制決済しますか? [YES / YES] 】


 選択肢が「YES」しかねーじゃねーか。

 だが、それでいい。


(当然『YES』だ。……あ、ついでにターゲットは、一番大きな声で俺をゴミ呼ばわりした、あの脂ぎったデブの親戚で頼むわ)


 俺が脳内でスイッチを押した、その刹那。


「ふん、こんな無能な赤子、ラインハルト家の名に……ぬ、ぬおおおおおおっ!?」


 さっきまで勝ち誇った顔で俺を指さしていたデブの親戚が、急に干からびたレーズンみたいにしぼみ始めた。

 彼が蓄えていた莫大な魔力資産……それが、俺の「エネルギー不足」という名の負債を埋めるために、津波のように転送されたのだ。


「あ、あ、足が……! 指先ひとつ動かせん……! 私の魔力口座が……(ゼロ)だぁぁぁ!」


 床に崩れ落ち、ピクピクと痙攣するデブ。

 一方、俺のシステム画面は、奪い取った資産でパチンコ台の確変中みたいに光り輝き出す。



【魔力チャージ完了。規定値を大幅に超過しました】

【ボーナス:転嫁対象の『やる気(精神的昂揚)』も同時に転送されました。現在、アルフレッド様は無駄にハイテンション状態です】


「ギャハハ! ギャーハッハッハ!!」


 魔力と、他人の「溢れんばかりのやる気」を強制注入された俺は、赤ん坊にあるまじき不敵な高笑いを上げた。


 全身から溢れ出す紫の魔光。あまりのエネルギーに、俺の体はゆりかごの中でタップダンスでも踊り出しそうな勢いでバタバタと跳ね回る。


「……おおお! 見ろ! 魔力数値は『2』、だがこの溢れ出すプレッシャー! まるで伝説の狂戦士(バーサーカー)の再来ではないか!」

「常識を越えている! 数値そのものをバグらせるほどの天賦の才だ!」


 親父や、さっきまで俺を叩いていた連中が、手のひらをドリル並みの速度で返して盛り上がり始めた。

 

 ……ふん、チョロいもんだぜ。


 こうして俺は、「史上最低の魔力量」というレッテルを逆手に取り、「なぜか周囲が勝手に自滅し、自分だけが最強に輝く恐怖の神童」として、その悪名を世に轟かせることになったんだ。

 

 ……ただ、他人のやる気を吸いすぎたせいで、今は猛烈に「腹筋とかしたくなって困る」のが唯一の誤算だがな。


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