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第三話 至福の瞬間

 災難だった。恥辱に塗れた尻拭いはもう二度とごめんだと思った。しかしお陰様で、腹が痛いときに何か出す場合、問答無用で便所に駆け込むべしという教訓を得た。そういう意味では、この有意義な体験ができたことは非常に大きい。たしか、何かがあって経験から学ぶのは賢者であるはずだから、私はケンジャだヤッター!。

 尻拭いに疲れたから、とりあえず座ろうと思う。洗濯場に隣接している部屋の戸を開けて入り閉じて、唯一そこに備え付けられている、椅子と呼ぶにはあまりにも特殊な形のそれに腰かけた。襲い来る冷気に思わず腰を浮かせたが、次が装填されたため好都合だった。

 位置についた私は、かかとを浮かせ、前屈姿勢を取り、左手で戸を押して体を支え、右手で腹を時計回りにさすり、太ももと胴体の間の角度を35°に保った。

 用意は万全、今度こそ適切な場所で出すために思い切り踏ん張ると、高らかに鳴りやがった。逆だろ。

 そうか、急いては事をし損ずる、か。そうだ、何も焦る必要はない。実が完全に成熟する瞬間まで収穫しないように、実が降りてくる瞬間まであくまで自然の成り行きに身を委ねるのだ。何事にも機がある。それは、この世の理が定めしもの。己の手でどうにかしようとする方が間違っていたのだ。私は、悟った。全てから解き放たれた。今の私は、私ではなく、私ではない私は私なのだ。私は我を捨てた。するとどういうことだろうか、腹部の、それも深淵のすぐ近くに来ていることがよく理解った。

 よしきた。至福の瞬間だ。分厚い真っ黒な雲の隙間から差す眩い一筋の光のごとく照明が私を照らし、歓喜に打ち震えるがごとく全身に鳥肌が立った。この至福のために私は生まれ、生きてきたと確信するほどに、その至福はあまりにも至福だった。至福が私服をきて私腹を肥やしても、私は一向にかまわないほど、その至福に脳を焼かれていた。

 力んだ。ブリュッっと音を立てて、ジョバッっと射出した。穴を起点に美しい円錐状の茶色が形成された。この体積を求めよと言われたら、肌感覚で寸分狂わず正確に算出できる自信があった。

 第二波が来た。より力んだ。今度はブリュリュッ!っとズジョベバブババッッ!!っと出た。あまりの勢いに液体がはね返り、幻想的で空前絶後な創造性に富んだ素晴らしい芸術が生まれた、否、産声を上げた。前人未到の境地、その頂に、唯一私が到達できたことを誇りに思った。

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