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そうだ、あの世へいこう   作者: きじの美猫


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9/9

黒縄地獄・DJ迦楼羅と阿修羅

「はふ~。」

手すりを掴んでいた手が固まってる。

べったりと汗がにじんでいた。

見てるだけでこれだよ・・・。

亡者だったらどんなに恐ろしいことか。

なんだか足もがくがくしてるな。

降りていくのにはなかなか勇気がいる。

ホールがだんだん暗くなるのをあとに

ゆっくりと廊下へ出た。


「んがっ!」

なにかふかふかしたものにぶつかった。

「おう、これは失礼。」

「いえ、こちらこそ、そそそそそそs。」

あとが続かなかった。

目の前にいたのはあのステージで叫んでいた鳥人だった!

「見学かね。」

「ははははははははいいい・・・・。」

「まあ緊張することはない。少しそこで休むといい。」

い、意外と親切な鳥さんだな。


鳥人は迦楼羅という。

あー、そうだよ。

そういえばこういうお顔の彫刻とかあったよね。

迦楼羅はけっこうイケメンで、長身の上にマッチョでかっこよかった。

思ったよりうんと気さくなかんじだ。

「今日は短くて物足りなかっただろう。」

「い、いえ、十分迫力ありましたし。」

「皆、もう少し耐えられれば刑期も早くおわるのだがな。」

そういって迦楼羅はちょっと悲しそうな顔をした。

見たことあるよ、その表情。

サラリーマンの悲哀を感じる顔だった。

迦楼羅、キミもお勤めなんだね・・・。


「ここはどういう人がくるんですか。」

「そうだな、盗み・酒害 など日常的な罪を犯したものたちが来る。」

「ばらばらなんですか。」

「いわゆる「越えてはいけない一線」を越えたことが共通点と言えるだろう。」

「他人との境界って・・・。」

「いわゆるハラスメントとかいうやつだな。」

えっ!ここでも元上司を裁いてもらえるのか?

「プライバシーの侵害とか、アイデア盗用とかもだな。」

いるよね・・・人のセンシティブにずかずか土足で入り込んでくるおばさん連中とか。

「悪意をもってやるのはもちろん、配慮がないのも対象だぞ。」

「えっ、そうなんだ。気を付けます・・・。」


「貴殿が配慮を語る立場とは思えないが?」

後ろから声がした。

振り返りたいが、なんか視線に圧がありすぎる。

「まあ、それはそうなんだがな。」

迦楼羅はこともなげに笑っている。

ようやっと振り返るとそこにはあの三面六臂のおにいさんがいた。

おにいさんだよね・・・反対側のお顔見えないけど。

「さきほどはすまなかったな。あたってしまった。」

「い、いえ~、こちらこそ。」

ああ、やっと思い出した。

このお顔、独特な体躯。

彼は阿修羅だ!


「阿修羅のおかげで安心してお勤めができる。」

「少しは加減を覚えぬか!全員抜け殻になってしまうぞ。」

「それは困る。ちゃんと帰してやりたいからな。」

ふたりは仕事上のパートナーのようだ。

「阿修羅さんはなにをされていたんですか?」

そりゃ聞きたいよね、あんな不思議な動きしてたんだから。

「亡者が抜け殻になるのを防いでいる。」

「も少しわかりやすく説明してやれよ。」

DJ迦楼羅、ナイス突っ込み!


「そうだな・・・。」

阿修羅の話ではこうだ。

黒縄は生前の罪の証で、亡者を魂ごと切り刻む。

黒い線がひとつづつ引かれていくのだが、

罪が重くて線があまりに数多くなると、塗りつぶされてしまうらしい。

そうなると魂はその存在がなくなってしまう。

地獄では「自分」が何者かわからなくなる=最大の苦痛だという。

「自分がなくなってしまっては帰ることができなくなるのでな。」

阿修羅はぽつり、と言ったあと、とても悲しそうな目をしていた。

あのホールいっぱいの人ごみの中を

3人分以上の働きをしながら駆け回っていたのとは別人のようだ。


「阿修羅は・・・。」

迦楼羅は目を細めて言った。

「戦場に出ると文字どおり鬼のようになるのだが。」

デスヨネ~、見ましたよ。それ。

「本当は優しいのだ。」

そうだろうね・・・、あんなに懸命になってみんなの魂を守ってた。

「自分の中に矛盾を抱える存在でな。なんというんだっけ。その・・・。」

阿修羅がぼそっと言った。

「HSP。」

「へ?」

今なんて言ったの、阿修羅さん???

「そう、それだ。感情のゆらぎに敏感なんだ。」

「だって頭が三つもあるし。」

そ、そうなのか・・・。けっこう大変なんだね。

「6本の腕もだれかのために使いたい。」

うんうん、だれかを支えたり、誘導してあげてたよね。

「抜け殻になって戻れなくなるのは悲しいだろう?」

阿修羅は少年のように澄んだ目をしていた。

彼のなかには戦うちからと、悲哀がともにあるのだろう。


迦楼羅はにこにこと笑みを浮かべ、阿修羅の肩を叩いて言った。

「おかげで今日も助かったよ。ありがとな。」

迦楼羅の目には温かい炎が灯って見えた。

いい仲間に恵まれている二人がうらやましいな。



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