等活地獄・現世
「なんだか。」
うまく言えないな・・・。
「地獄のイメージとチガウ。」
弥勒は静かにうなずいた。
「地獄は自分のなかにできるもの。闇より出でて闇へと帰る。心のうちの闇が地獄です。」
どっかのアニメキャラの詠唱みたいだな・・・。
でもたしかにそんな感じだ。
「いろんな絵とかに描かれているようなものはなにもないね。」
「ありませんね。だってあれは宣伝用ですから。」
「せ、せんでん?」
「地獄についての伝承は生きている人のためにあるものなのです。」
そうだよね。死んだらそこいくんだからリアルで見られるし。
「こういう悪いことをするとこんな怖いことが待っているという脅しみたいなものです。」
「えっ、弥勒さんがそんなこと言っていいの。」
「まあ、当たらずといえども、といったところでしょうし。」
「罰だからと人に物理的な責め苦を与えても心は納得しないでしょう。人を正しくするには心が納得して受け入れなければことは成就しません。
意図的に悪事を働く人はさほど多くありませんが、それをついうっかり忘れてしまうことはよくあるのです。忘れないために、また、悪いことをするのを未然に防止するためにあの恐ろしい絵図や伝承があるのです。」
「だから生きている人のためって言ったのね。」
「もちろん当人には償ってもらう必要がありますので、罰はあります。
ただ、それは心の中での罰で、自分の行いで相手がどう感じたかを体験してもらって反省してもらうためのものなんですよ。」
「冤罪とかだとどうなるの?」
「もちろん罪状については綿密に調査をします。本人からも事情を聴きますから、そこで気が済むまで主張することができます。」
「うまく説明できなくても・・・?」
小声になるのはいたしかたない。
「大丈夫ですよ。どんな小さなことでも必ずしっかり聞いてくれます。」
そうなのか。
聞く耳もたなかった連中の顔がちらりと浮かぶ。
地獄のほうが公平じゃん。
「聞くだけじゃありませんよ。」
「なんと。」
「一度審査したものはもう一度別の調査を行って精査をします。」
さすが地獄。仕事が丁寧すぎる。
「そこで不服があったら申し立てをして再度最初から審査をしてもらうこともできるんですよ。」
「それはすごいかも。」
すべての亡者が最高裁まで掛け合ってもらえるみたいなもんだが、あれも途中からだもんな。
「地獄の目的はなにがよくなかったのかを知ってもらうことです。そのためには本人がよく理解して納得しなければなりませんからね。」
なるほど、聞けば聞くほど地獄のイメージがガラガラと崩れていく。
「減刑だってあるし、わたくしのようなものがお手伝いして負担を軽くしてさしあげることもあります。あとはご供養が手助けしてくれることも。」
「それはどういうものなの?」
「遺族の方や知人の方がご供養をしてくださると減刑されることがあります。もちろん豪勢な法事などは必要ではなく、生前にかかわりのあった方の想いが届いた結果ということですね。」
「お友達がお墓参りに来てくれるとかでもいいの?」
「もちろんですよ。人ばかりでなく、かわいがっていたペットが思い出してくれることだって等しく対象となります。」
それなら超絶引きこもりでもなんとか恩恵をうけられそうだ。
「現世って、ある意味地獄以下のところもあるかも。」
弥勒さんは少し表情を硬くした。
「時代の変化なのかもしれませんが、望ましくないことですね。」
こわいはずの地獄よりオソロシイ現世っていただけないよな。
職場での記憶がちらりと頭をかすめた。
パワハラっていうのかな。
そういうので命を落とす時代だから
亡者のなかにはその加害者だっているのかもしれない。
それともまた別のところで裁かれるのだろうか。
頭のどこかで「ちーん」と金属音に似た響きがしたような気がした。




