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そうだ、あの世へいこう   作者: きじの美猫


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賽の河原にて

「まもなく着陸いたします。」


なんてことはないふつーの飛行機に乗ってうたたねしている間についてしまった。


「ん-、片道だから起きておくべきだったかな。」


まあいいや、もどれるかどうかも定かでないし。


通路を歩いて外へ出る。


なんか暗いな。


まだかよ・・・。


なんかやたら遠いんだけど。


まわりにはだれもいない。


ただうす明るい通路だけがえんえんと続く。


「一本道だしー。」


行くしかないか。


ようやっと階段らしきものにたどりついた。


自動ドアから外へでる。


「お疲れ様でございました。ヨミ航空ツアーへようこそ。」


漆黒のスーツに身を包んだ執事っぽいお兄さんが立っている。


「わたくし、コンシェルジュの夜叉と申します。お見知りおきを。」


「はあ、よろしくお願いします。」


「短い間ではございますが、お客様のお世話をさせていただきます。」


「ほかにツアーのお客さんはいないの?」


まさかマンツーマンでお世話係がいるわけではあるまい。


「本日のご案内はお客様おひとりでございます。」


「そうなんだ・・・。」


「お手続きはおおむね完了しておりますので、簡単なご説明と添乗員のご紹介となります。」


「添乗員さんがいるのね。」


ほほー、なんか高級ツアーぽいな。悪くないかも。


もとの世界へ帰れるのか、とはあえて聞かなかった。


いまのところあんまり帰りたくもなかった。


ブースのような個室に案内された。


ネイルサロンとかみたいな明るくてこぎれいな部屋だ。


「あの世ってどういうところなの。」


「一般的に言われております通り、お亡くなりになってからの世界となります。」


「まだ死んでないのね。」


「視察段階ですので。」


見終わったら契約成立で死んでたりするのかな。


賃貸物件かよ。


「こちらが添乗員の羅刹でございます。」


へえ、どっちかっていうと見た目天女なんだが。


「本日はご利用いただきましてありがとうございます。」


お辞儀をするところもどこか優雅だ。


「はあ、こちらこそよろしくです。」


MMOでパーティー組んだ時のチャットみたいな会話だな。


「ではまいりましょう。」


夜叉に見送られ、動く歩道のようなものに乗って進んでいく。


楽ちんや~♪


「こちらからは川沿いになります。」


ああ、三途の川っていうやつね。


向こう側から涼しい微風が吹いているようだ。


歩道から降りて川岸へと向かう。


思いのほか川幅が広く、向こう岸は見えない。


「このあたりが賽の河原です。」


羅刹は少し前を歩きながら説明を加えた。


「親より先に亡くなった子供が石を積み上げていくのですが、完成が近づくと鬼に壊されるのです。」


めっちゃ腹の立つ仕組みだな。


なるほど河原のあちこちに子供たちが散らばっている。


小学生くらいから乳幼児までさまざまだ。


みんな一様にせっせと石を運んで積んでいる。


なんだか仕事をしているときの自分とその姿が被って泣きたくなってきた。


「少しあたりを散策なさってください。ひととおり見られましたらまたここへ来てくださいね。」


子供のいるところまで下りて行ってみた。


背丈だから1メートルくらい積むのだろうか。


ある女の子は片手で石を積んでいた。


ていうか片手しかない。


「キミの右手は・・・。」


「赤ちゃんの時にけがしたの。」


なんかそれって不公平じゃん。


「ほかの子の半分しか積めないよね。」


「ううん、そうでもない。」


女の子は座り込んで足を投げ出した。


「足があるからみんなと変わらない!」


言い終わると同時に器用に足で石をつまんで積んでいく。


ああ、なんとたくましいことか。後光がさしてみえるぞよ。


大人のくせに人の半分しか進めないなんていじけた考えを持ったことが恥ずかしくなった。


「そうか。がんばってね。」


どの子ももくもくと作業をしている。


下を向いているけど、それは自分とは違うと感じた。


上を向けなくて下しか見られないのではない。


いまは下を見て作業しているだけなのだ。


ちょっと大きい男の子がいた。


ほかの子の倍速で汗だくになって石を積んでいる。


「す、すごい早さだね。」


「うん、ママを待たせてるから。」


「待ってるの?」


「そうだよ。ママに早く気付いてほしいから。」


「どういうこと・・・?」


「わたくしがご説明いたしましょう。」


後ろから声がかかった。


振り返ると大人がいる。


「わたくしは地蔵です。このエリアで子供たちの手伝いをしています。」


「よ、よろしくお願いします。」


地蔵ってこんなにイケメンだったのか;


「実はこの石積みは子供たちのためではないのです。」


「え、そうなの?」


「石積みを壊す鬼のことは知っていますね。」


「はい。」


「あれは親の嘆きから生まれるものなのです。」


「自分の親?ですか。」


「子供を亡くしていつまでも嘆くことが、子供に終わりのない石積みを背負わせているのです。」


ナンダッテ~??


イケ地蔵さん曰く、子供が親に先立つのは自分の意思じゃない。だから罪といわれても不可抗力なことが多い。それなのに積んだそばから壊されて延々同じことをやらされる。


それはいつまでも立ち直らない親の未練がそうさせるのだそうだ。


親は早くそれに気づいて気持ちを整理し、りっぱに立ち直って子供を開放してやるべきなのである。


自分の背丈まで石が積めたら、親がそれに気が付いてくれる。


親をその苦しみから解放したくて、子供たちはひたすら石を積む。


でも子の心親知らず。鬼は親が嘆きにとらわれている証なのだ。


けなげな子の邪魔をする鬼のやつ、親知らずだけにペンチで引き抜いてやりたいわ~。


「なんだか理不尽だな・・・。」


ふと目をやった先にハイハイする赤ちゃんが見えた。


あの子はどうやって石を運ぶのだ???


目を凝らしてみていると、なんかぽとっと落ちたようだ。


「あれっ。」


小石だった。


手には持てないからくわえて運んできたのだろう。


「あんな小さい子が・・・。」


絶句するしかなかった。


「なんとかならないの?」


「ひとつ、やってみます?」


地蔵がにやりと笑う。


ナニこの人、なにを企んでいる。


「なにか方法でも?」


「まあ、ご協力いただければ。」


そんなキレイな顔で悪だくみしないでくれ;


イケ地蔵は仲間を呼んできた。


もちろん全員地蔵である。


みんなで6人。六地蔵ってわけね。


「鬼は石積みができそうになるとやってきて突き崩していきます。」


「その時に崩すことができなければ子供は光となって天へ上り、解放されます。」


要するに鬼が来る前に完成するか、来ても壊せなければいいわけだ。


「よし!壊されない算段をしよう。」


こういうのは得意なんだよ。ぼく。


地蔵ズに手分けして子供たちを集めてもらった。


「みんなここで作ってね。普通に積むのではなくちょっと細工をします。」


年長組に指示をだして川底をさらい、粘土と砂を集めてもらった。


地蔵ズの何人かには石灰石その他を掘ってきてもらう。


集めた材料を加工してセメントを作る。


まあ接着剤みたいなもんだから、石積みをするときに間に流し込んでおく。


土台がしっかり固まったら上に積み・・・を繰り返して8割がたできたら休止。


あとは大きさをみて、全員分がいっせいに完成間際になるよう進めていく。


「よし、準備はできた。あとは決行するのみ!」


鬼がやってくる側に近いほうの石積みは特に補強を強く、遠いほうに小さい子たちの石積みを配置した。


鬼はそう大勢でやってくることはない。


せいぜい3体くらい。


うまくいくかな・・・。


「こちらにいらしたんですね。」


聞き覚えのある声が・・・。


「あっ、ら、羅刹さん;」


何の気配もなくいきなり羅刹が現れた。


にこやかな笑顔だが、そっちのほうがこわい。


「そろそろまいりましょうか。」


「は、はいい・・・。」


イケ地蔵に助けを求めるつもりで目くばせをしたが、彼は案外落ち着いていた。


「だいじょうぶ。あとはこちらで。」


「そ、そうか・・・。」


仕方ない。最後まで見届けたかったがこれ以上は無理そうだ。


歩道ルートに差し掛かるころ、河原が騒がしくなってきた。


細かいところまではわからないが、石を打つ音や砂煙があがっている。


それとは別に霧のような光があちこちから天に向かって伸びていくのが見えた。


「願いがかなったようですね。」


羅刹はゆっくりと振り返った。


怒られるかと思っていたが、羅刹は笑っていた。


わかってもらえたような気がしてちょっとうれしくなった。


でも、最後まで見届けたかったナ。


「いかがでしたか?ご堪能いただけましたでしょうか。」


夜叉はあいかわらず端正な笑顔で迎えてくれた。


「あ、はいい・・・。時間がたりなかったかも。」


そうだよ。あのあとどうなったかが気になるんだが。


「充実していらしたようですね。それはよかった。」


河原の反逆の件、羅刹はなにも言わなかったようだ。


「このツアーって今回限りなの?」


「また来たいということでしょうか?」


「そう、だね。」


「機会があればまた企画することもあろうかと思いますので、そのときはぜひ。」


「はい!」


帰り道はかんたんだった。


大きな黒っぽい鉄の門に案内された。


「こちらを通ってお帰りになれます。」


「徒歩で?」


「はい。徒歩で。」


中は暗かったが、道はうっすらと明るく小さな花などが咲いているようだった。


不思議とあんまりこわくなかった。


「またのご利用お待ちしております。ごきげんよう、」


夜叉に見送られ、扉の中にはいって数歩歩いたら急に明るくなって、家の近所の踏切前にいた。


「ありゃあ、これは楽だわ。」


帰ってから、かの友人に電話をした。


やつはふんふんと聞いていたが、やっぱり河原の反逆には興味津々といったところだった。


「まあ、気が向いたらまたいけば。」


「うん~。」


ついてくるとか言うなよな、と思ったのはヒミツだ。


あれからさほどかわったことはない。


たまに道路の向こう側にイケ地蔵に似てる人を見かけるのは気のせいだよね・・・。


捕まえて「あのあとどうなった?」と問い詰めたい衝動を抑えつつ、またいこうと企む日々である。


あなたもいっぺん行ってみる?

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