第二話
陽だまりに座る少女の細い腕を少年の大きな手がつかんだ。
「暁ちゃん・・・?」
少女は驚いてその少年の名を呼ぶ。
「ついてきて。」
いつも静かであまり話さない暁がはっきりと何かを口にするのを結衣は初めて聞いた。
しかし驚いて腕を引かれるまま少し歩いた足は、すぐに立ち止まった。
「ま、待って!私ねっ、待ってる人がいて・・・。」
そこは体育館とプールの間の少しゆとりのある路地のような場所で、お昼休みの今はちょうど日当たりのよい場所だった。結衣は毎日、お昼休みはそこで待っていた。
「いいから。」
暁はさっきより強く手を引いてどんどん歩いていく。
いつもとは違う暁のその行動に結衣は口を閉じて、引かれるまま歩いた。
今まで二人が直接話したのは二、三回しかないけれど、二人はお互いをよく知っていた。
無口だが穏やかでやさしい笑顔を見せる暁は、人の目を引くほど格好良いというわけではないが、芯の強さや存在感のある不思議な少年で、クラスの女子の多くが彼をひそかに慕っていた。
そんな彼とは違い、クラスでも普通の居場所を保持する少女結衣を彼が知っているのは、彼がその『不思議な少年』だからだった。
「あのっ。」
結衣は彼と仲の良い樹の言葉を思い出した。
“あいつ、見えるんだ。”
意味ありげなその言葉にそこにいた何人かは嘘だとかなんとか言っていた。
もしも、結衣は振り返る暁の顔を見た。
もしも本当にそうなら彼は今・・・、口はその想いを言葉にしなかった。
お昼休み、人の来ないあの場所に現れて腕を引きつれていかれるその意味が結衣はつかめそうでつかめない。いや、つかみたくないというのが正しいのかもしれない。
その先に待っているものを、いち早く理解してしまえる自分を恐ろしくさえ思った。
そっと小さな言葉をつなぎ合わせた音がこぼれだす。
「・・・暁ちゃん、小林さんを知ってるの?」
それがすべての始まりだった。