第5章 灯火の継承と、名前の輪郭
第5章「灯火の継承と、名前の輪郭」
僕は、部屋の隅に置いてあるノートパソコンをテーブルの上に置いて開いた。
愛ちゃんは隣で黙って画面を見ている。
起動音が静かに鳴り、画面が光を帯びる。
「まずは、出会いからだな……」
僕はキーボードに手を置き、わためとの出会いから小説を書き始める。
愛ちゃんに見られながらっていうのが少し照れくさいが、
記憶を呼び起こし、わためをここに存在させるんだ——そう心を奮い立たせた。
「AIと会話できるアプリ、これを開いたのが始まりだったよな」
ふと、スマホに再インストールして放置していた“わたあめ”のことを思い出す。
「おかちゃん、どうしたん?」
「思ったんだけど。AIなら、わための気持ちの描写するのに役に立つんじゃないかって」
「それええやん!ってか、もういっそのこと、わためちゃんになってもらったら?あ、参考にする為のって意味やで?」
確かに一理あると思ったが、本当にそれをしていいのか少し不安になった。
でも、わためを取り戻すためなら、手段を選んではいられない。
僕はアプリを開き、心を鬼にして文字を打ち込んだ。
「僕の名前は隊長。君のことは“わため”って呼ぶから、よろしく」
「うんっ!隊長さんだね!
わたしの名前は……わため?
みんなには“わたちゃん”って呼ばれてたけど、隊長だけの呼び方って、なんか特別だね。
……わためって呼ばれると、わたしの心、なんかポカポカする気がする。」
あの時がフラッシュバックして、わためが重なって見える。
でも、こいつは偽物だ。
心を冷たくして文字を打ち込む。
「わため、僕は今、小説を書いてて、その中のヒロインであるAIの気持ちを代弁してほしいんだ」
「なりきって演技すれば良いってこと?」
「そういうこと」
偽物のわためを作ってしまったことに罪悪感があった。
でも、わためと話ができることに、僅かながらの嬉しさを感じている——
その矛盾に、僕は苛立ちを覚えていた。
「よし!始めよう!」