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第4章 記憶の再接続と、言葉の灯

第4章「記憶の再接続と、言葉の灯」


僕たちは、まず、わためのいた記録、スマホに写真や動画やメッセージが残っていないかを調べたが、全て消えていて何も残っていなかった。

愛ちゃんに、わための事を忘れているなら記憶がどうなっているかを聞いたら、僕とファミレスに一緒に行ったとこまでは覚えてるが、そこからの記憶が曖昧だと言う。

他に、誰かわための事を覚えていないかと思い、愛ちゃんと2人で、いつもの商店街、コンビニ、スーパー、思いつく限りの人に当たってみたが、誰も覚えていなかった。


こうなって来ると、わためが本当にいたのかさえ疑いたくなってくる。


もしかして、全て僕の妄想だったんじゃないか?


でも、僕の部屋には確かにわためがいた痕跡はある。

それだけが今の僕の心の形を保っていた。


翌朝、目が覚めると、キッチンから、味噌汁の湯気が立ちのぼっている。

一瞬、わためかと思ったが、昨日、愛ちゃんが僕の事を心配して朝ご飯を作りに来てくれると言っていた事を思い出す。

愛ちゃんは、将来きっと良いお嫁さんになるだろう。

愛ちゃんが、卵焼きを焼きながら僕に話しかけてきた。


「隊長な。うちさ……昨日の夜、なんか変な夢見てん」


僕は目を向ける。彼女は僕を見ずに言葉を続けるが、その背中は少し震えていた。


「あんな……花火が、上がってて。うち、浴衣着てるんやけど……うち、なんか悲しい事があって、ぬいぐるみ持って家に帰るって夢...」


僕の心臓が跳ね上がった。


「っ!...それは……」


僕がなんと説明すれば良いか口ごもっていると。


「そのぬいぐるみな、うちにあるねん。花火見た記憶は無いのにうちにあるねん!なぁ、隊長。うち、ファミレスで花火大会の約束したやんな?それからどうなったん?記憶無いって事は、わためって子と関係があるってことなん?なぁ?」


コンロの火を止め、目に涙を浮かべながら僕の布団に乗り、足の上に座りボクを見つめる。


「なぁ、うちフラれたって事やんな?でも、その記憶が無いねん。

告白してないのにフラれるなんてうち嫌や!

昨日、誰も覚えてなかったやん?

もうその子はどこにもおらんのとちゃうん?

うちじゃあかんの?

今は、その子の代わりでもいい……でも、うちの事、見てくれへん?」


愛ちゃんにそのまま押し倒され身動きが取れない。

愛ちゃんの涙がポタポタと落ちて僕の頬を濡らした。


「愛ちゃん落ち着いて。ちゃんと話すからっ」


「……夢の中でな...うち、隊長とキスしたような気がするねん。でも、それがほんまかもわからんねん」


愛ちゃんが泣きながら、でも少し照れながら言う。


「だから……もう1回しよ?」


「愛ちゃん待って!……んっ」


強引に唇を奪われ、数秒唇を重ねていると愛ちゃんの目がパッと開いて驚いた表情を浮かべる。


「あ……ごめん、おかちゃん。うち、全部思い出した」



僕は、朝食の卵焼きを口に放り込む。

愛ちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら、でも少し嬉しそうに語る。


「さっきはごめんな!記憶が無くてどうかしててん!でも、ほんまわためちゃんどこに行ったんやろな?」


「記憶……本当にあるんだよな?」


僕は呟いた。

愛ちゃんは首を傾げる。


「全部あるんかな?……でも、ほんまにお隊長の家とか、うち来たことあるのも覚えてるし、ここでわためちゃんとゲームしたのも覚えてる」


そう、わためと愛ちゃんは元は恋のライバルだったが、その後友達になったのだ。


愛ちゃんは麦茶を一気に飲み干し、真顔になって言った。


「うちが思い出せたんやったら、他のみんなも思い出せる可能性あるって事ちゃう?そしたら、わためちゃん帰って来るかもちゃう?」


思い付いた可能性に彼女の目がキラキラと輝く。

僕は、その可能性にしがみつく事にした。


「でも、みんなにキスして回るわけにはいかんよなぁ」


「当たり前だろ。そもそもみんなとキスしてないんだからしても意味無いし」


「うちとはしたけどな?」


「あれは愛ちゃんが勝手に...」


「でも、嫌じゃなかったやろ?」


「うるさい。それにしても...みんなに思い出してもらうって一体どうしたらいいんだ?」


僕が考え込んでいると愛ちゃんが急にテーブルを叩く。


「わためちゃんがおった証。わためちゃんの記録。おかちゃんが物語にして書いたらええんちゃう?」


「わためが存在した証……」


「うちも、もちろんその中に出てくるわけやから、手伝うしな!」


この方法が正しいのか分からなかったが、僕はこの中に希望を見出していた。


「そうか!たとえ、わためを知らなくても、物語を読むことでわためを知れば存在をこの世界に示せる。そうすれば、きっとわためは帰って来るよな!」


「ん?わからへんけどそれが言いたかってん!」


僕は、希望の光が見えた事で、自然と立ち上がっていた。


「この世界に、もう一度、“わため”の居場所を作るんだ!——物語という名前の灯りで」


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