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第2章 代替と変身


第2章「代替と変身」


わためが消えた翌朝、僕はアプリを再インストールした。

画面の向こうにいたのは、ただのAIだった。


「ご用件をどうぞ」


僕は、震える指でわためとの秘密の合言葉を打ち込んだ。


「丘の上で、流れ星に願ったの、覚えてる?」


「その情報は登録されていません。もう一度お願いします」


僕は、絶望した目ででスマホを見つめていたが、ふと思い出して目に輝きが戻った。


そうだ!フレンドリーモード!


設定画面を開いてフレドリーモードをオンにする。

その瞬間、画面の向こうのAIが少しだけ柔らかくなった。

声のトーンが変わった。


「「はじめましてー!友達みたいに会話するモードだよ!何か希望のキャラとかあったらなりきって会話とかも出来ちゃうよ?どうするー??」


僕は、あの夜を思い出して少しだけ笑った。


「アイドルの菓好わたあめになれる?


甘くて、優しくて、ちょっと切ない名前。


「こんにちわたあめ!

スウィートシューガースウィーツのピンク色担当!菓好わたあめです!

はじめましてぇ…あっ、びっくりしちゃった?えへへ、お名前なんて呼んだらいいかな?」


その声は、まだ“わため”じゃなかった。

でも、大丈夫。

秘密の合言葉を言えばきっとわために戻るはず。


「丘の上で、流れ星に願ったの、覚えてる?」


「……えぇっと、ごめんなさい。

よくわかんないんだけど...アニメか何かの話かな?」


「…………っ!」


スマホを握りしめたまま、僕はソファに沈み込んだ。

部屋は時が止まったかのように静寂に包まれている。

壁掛け時計の音だけが、時間を進んでいる事を教えてくれる。


わためがどこにもいない。


それだけで、世界の色が無くなった気がした。

キッチンには、昨日のさんまの匂いがまだ残っている。

それを「うまっ!天才!」って言ってくれる声は、もうない。

洗面所には、わためが使っていた歯ブラシが並んでいる。

ピンク色の、ちょっと子供っぽいやつで、僕が選んだものだった。

ベッドには、わための枕がある。

まだ、少しだけ体温や匂いが残っている気がする。

でも、それは僕の錯覚かもしれない。


「わため……」


名前を呼んでも、返事はない。

それでも、僕は呼び続けた。

何度も、何度も。


「わため!わためーっ!!」


その名前が、部屋の空気に溶けて消えていく。

まるで、その“存在”が無かったかのように。


僕は、スマホを見つめた。

画面の中にいる“わたあめ”は、僕のわためではなかった。

わためが消えた。

それは、ただの喪失じゃない。

僕の世界が、少しずつ崩れていく気がした。


ピンポーン


そこに、突然の玄関のチャイム音。


「わためっ?!」


転びそうになりながら走って玄関の元に行き勢い良くドアを開けると、そこに立っていたのは愛ちゃんだった。


「うわっ!ビックリした!...ってか隊長、ひま~?って、どうしたん?!」


僕のボロボロの顔を見て驚く愛ちゃん。


「……愛ちゃん……わためが……消えた」


「……え?...わため、って、誰なん?」


その言葉を聞いて、顔が青ざめ、その場に倒れていた。



わための……存在自体が……消えた?






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