表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/45

5:侯爵令息との邂逅

よし、仕事は完了。

先生からの評価も上々だったし、これでタンザさんから例の宝石を譲ってもらえるはず。

液体状態での魔法触媒としての反応性——ずっと気になっていたから、楽しみで仕方がない。


そんな浮き立つ気持ちを抑えきれずに、廊下を歩いていたときだった。


「アレクサンドラ嬢、今少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


背後からかけられた声に振り返る。

深い群青の髪に翡翠色の瞳——フォルセティア侯爵家の長男、セリアス=フォルセティア様。


「はい、大丈夫です。フォルセティア様、何かご用でしょうか?」


「ありがとうございます。……少しお伺いしたいのですが、アレクサンドラ嬢は魔法の心得をお持ちですか?」


魔法の心得、か。

確かに、タンザさんの研究施設を利用する代わりに実験協力を頼まれたり、自分の研究結果を試したりしている。

けれど、心得と呼ぶには些か曖昧なものだ。


「多少は使えますが、『心得』と呼べるほどではありません。断言はできかねます」


私の返答に、彼は小さく「そうですか」と呟き、それきり沈黙する。

その横顔はどこか思案深く、視線は空を彷徨っていた。


(……これは長くなりそうですね)


「フォルセティア様、大丈夫ですか? よろしければ、教室までご一緒にいかがですか。私もそろそろ戻る時間ですので」


呼びかけると、彼はハッと我に返ったようだった。


「申し訳ありません。失礼いたしました。……アレクサンドラ嬢は、何科のご所属ですか? 私は戦術魔法科なのですが」


「私は実践科です。お隣ですね」


「実践科、ですか……。あそこは選抜制のはず。凄いですね」


少し意外そうな表情とともに、彼は納得したように頷いた。


「推薦です。個人的な事情でして。正直、職権濫用に近い扱いでしたけれど、研究の自由度が高いので助かっています」


そんなたわいもない会話を続けるうちに、彼の教室前へと到着した。


「おい、お前、どんな魔法使うんだよ! 見せてくれよ!」


「いいよ、ちょっと待って!」


教室の中から、やや騒がしい声が漏れてくる。

どうやら生徒の一人が、教室内で魔法を実演しようとしているようだ。


「君たち、教室内で魔法を使おうとするな!」


セリアス様が声を張り上げ、慌てて教室に駆け込んでいく。

だが、タイミングが悪い。男子生徒の魔力制御は明らかに未熟で、あのままでは魔法が暴発する。


(あれは、間に合いそうにないな……)


無詠唱でも魔法が発動しようとしているようだが、宝石に魔力を流しすぎている。

教室内の生徒たちを守るには、できるだけ広範囲に、けれど圧を抑えて——包むように結界を。


次の瞬間、男子生徒の魔法は暴発し、光が教室いっぱいに広がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ