50:告白以上を
セリアス様、もう帰ってしまわれたのだろうか。
中庭にも、会場にもいない。校舎にいるかもしれないと思い、私は走り出した。
自分でも何をしているのか分からない。拒んでおきながら、すぐに探すなんて。頭をよぎる考えに足が鈍る。まだ、考えもまとまっていないのに。
廊下に差し掛かったところで、人影が目に入った。
「セリアス……様……」
その言葉を聞いて彼は振り返った。
「リクシィ嬢?どうされましたか?」
一瞬だけ動揺が浮かんだが、すぐに平静を取り戻す。彼は私に近づいてきた。
「随分乱れていますね。大丈夫ですか?」
探し回ったせいで髪はぐちゃぐちゃ、涙を堪えたような情けない顔——確かに彼の目に映る私は散々な有様だった。
「セリアス様、ごめんなさい。勝手なことをして……でも、嫌いになったわけじゃなくて。どうしていいか分からなくて」
「リクシィ嬢。大丈夫です。こちらこそ困らせてしまってすみません。そんな顔をさせるつもりはなかったんです」
そう言って、セリアス様は悲しげに微笑んだ。私だって、そんな顔は見せたくなかった。あのとき言葉の続きを聞けば、私の嫌なところまで知られてしまいそうで怖かったのだ。
「今までと変わるのが怖かったんです。私は、あなたと一緒にいるのが好きでした」
祈るように紡いだ言葉に、彼の声が一瞬震えた。静かな廊下にその震えがよく響く。
「――リクシィ嬢」
「僕も、リクシィ嬢のことが好きです。僕の好きはあなたと同じとは限らないのかもしれません。けれど、ただあなたと一緒にいたい。それが独占心に近い部分もあるかもしれませんが……」
少し顔を綻ばせて彼は続ける。
「あなたが望まないことはしないと約束します。だからお願いです。どうか、これからも一緒にいてくださいませんか?」
それは告白以上のものだった。彼の言葉の重みが胸に触れる。
「本当に、私でいいのですか?もっと普通の女の子に言うべきでは——」
混乱する私に、彼は優しく笑った。
「あなただから言っているんです。誰より強く、美しく、聡明で、同時に繊細なあなたを」
恋愛の仕方が分からない私でも、ただ嬉しかった。そんな彼と一緒にいたいと素直に思った。
「私でよければ、あなたと一緒にいさせてください。いつか私も同じ想いを抱けるようになるまで、待ってくれますか?」
セリアス様は苦笑して言った。
「もちろん。たとえあなたが別の人を想ったとしても、今ここで僕が言った言葉は変わりません」
そう言うと彼は、静かに私を抱きしめてくれた




