4:学園生活へ
リクシィ=アレクサンドラが、魔法研究施設に通い始めてから数年。
そして今年、15歳になった彼女はついに、アルトラリエ魔法学園に入学することとなった。
「――これより、アルトラリエ魔法学園の入学式を開始します。まずは、校長による式辞です」
広い講堂に響く司会の声。壇上に立つのは、白いローブをまとった老校長。柔らかな笑みを浮かべながら、手元の杖を静かに握っていた。
「皆様、本日はようこそお越しくださいました。
あまり長話をしても退屈でしょうから、手短に申します。
今年度は、各地から優れた生徒たちが集まっております。中には、特待生として迎え入れられた方もおられることでしょう。
ですが――この学園においては、身分や出自は関係ありません。魔法を学び、互いを高め合うという目的において、皆平等です。
どうか、多くの人と関わり、多くの価値に触れてください。
皆さんの学園生活が実り多きものになるよう、心より願っております」
拍手の中、校長が席に戻ると、次の名前が読み上げられる。
「生徒代表挨拶――リクシィ=アレクサンドラ」
「……はい」
名前を呼ばれた少女が、ゆっくりと壇上へ歩み出る。
その姿に、講堂のあちこちからざわめきが起こった。
光を含んだ藍色の髪が、淡い朝の空のようにゆらめき、
瞳は深い緑にも、揺らめく赤にも見えた。
凛とした立ち姿は、まだ入学したばかりの新入生とは思えないほどの風格を持っている。
「本日は、私たち新入生一同のために、このような素晴らしい式を執り行ってくださり、ありがとうございます。
このアルトラリエ魔法学園で、知識と技術を磨き、仲間とともに切磋琢磨できる日々を楽しみにしています」
言葉は短く、しかししっかりと通る声で。
最後に微笑みを浮かべて一礼すると、彼女は堂々とした足取りで壇を降りた。
そんな中、会場の片隅で明らかに様子のおかしい者が二人いた。
ひとりは、同じく新入生の男子。眉間に深い皺を寄せ、ひとりごとのように呟く。
「ありえない……。あの膨大な魔力で、乱れがまったくない……いや、むしろ“何も感じない”。あれは……」
もうひとりは、壇上の教職員席に座る女性教師。知的な瞳は動揺を滲ませリクシィをじっと見つめていた。
その目は、まるで何かを探るように、何かを思い出そうとするように。
やがて式は、静かに、滞りなく終わった。
今後のリクシィの学生生活が同じように滞りなく終わるとは限らない。