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44:研究者は知りたくない

セリアス様からの甘美な誘いに乗って、私たちは現在、中庭にいる。

月光が噴水を照らし、水面がきらめいている。

静かな空気に包まれた中庭は、まるでこの世界に私たち二人しかいないようだった。

「やっぱりここにはあまり人はいませんね。ここに来て正解だった。」

セリアス様は噴水の近くのベンチに腰掛け、穏やかな笑みを浮かべる。

会場にいたときの少し張り詰めた雰囲気も嫌いではないけれど……

こうして肩の力を抜いた彼の表情を見る方が、ずっと好きだった。

「えぇ。……あの王子から逃げられたし、一石二鳥です」

小さく笑って答えると、セリアス様はわずかに眉を寄せる。

「ジルコリア様とは、仲がよろしいのですか? 以前の建国パーティーのときも踊っていらっしゃいましたが」

「私と仲がいいのではなく、リオ……弟と仲がいいんです。

同い年で身分も丁度よかったらしく、幼い頃からよく一緒に遊んでいました」

そう、ジル様はリオと親しかっただけ。

そう思っていた。……はずだった。

「ですが殿下は、あなたをよくダンスに誘っていらっしゃいますよね?」

「それは……きっと、私とリオを引き離したいからです。

昔から私とリオが話していると、必ず割って入っていらっしゃいましたから」

「……それは、どうでしょうか」

セリアス様はふと立ち上がり、私に背を向ける。

月明かりに照らされた横顔が、影を帯びていた。

「殿下はあなたと……リクシィ嬢と話したかったのでは?

少なくとも、僕にはそう見えました」

「それは……」

"ありえません"。

そう言おうとしたのに、言葉が喉で止まった。

だって――セリアス様が振り返ったとき、泣きそうな瞳をしていたから。

「リクシィ嬢……あなたは、鈍感ですね」

淡々とした声のはずなのに、震えている。

なぜか、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

「心外ですか?」

彼はゆっくり近づき、見上げるほどの距離に立つ。

吐息が触れそうなほど、近い。

「けど、本当のことですよ。

だって――あなたは気づいていないでしょう?」

「……何に?」

やっぱり、とセリアス様は小さく呟いた。

次の瞬間、彼は深く息を吸って、はっきりとした声で言った。

「僕の……気持ちに」

月明かりが、彼の赤らんだ頬を照らす。

まるで告白のようなその言葉に、心臓が跳ねた。

――違う、違う。

そう思って首を振ろうとするのに、声が出ない。

セリアス様はさらに一歩、私との距離を詰めた。

「……リクシィ嬢」

名前を呼ぶ声は震えていて、

それでも彼の瞳はまっすぐに私を捕らえていた。

もう、逃げ場なんてなかった。

「――それ以上、言わないで」

私は慌てて立ち上がり、彼の口元を手で塞いだ。

掌に触れる体温が熱い。

「……それは、気づいたとしても……

私には、どうすることもできません。だから……だから口にしないで」

震える声でそう言うと、セリアス様の肩がわずかに揺れた。

顔は見ない。見たら、きっと何かが壊れてしまうから。

沈黙が落ちたまま、時間が止まったようだった。

しばらくして、セリアス様はそっと私の手を外し、代わりに腕を優しく掴んだ。

その指先は痛いほどに熱くて、切実で。

「……わかりました。……すみません。……失礼します」

低い声でそう告げると、彼は早足で噴水を離れ、

会場とは反対方向――暗い庭園の奥へと歩いていった。

その背を見つめることもできず、私は視線を逸らした。

胸の奥が、どうしようもなく痛い。

……だから、気づかなかった。

スピンネル先生が彼を追いかけていたことに。


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