41:恋を知る日
セリアス視点
「なんの用ですか?ゼイン。わざわざ呼び出してまで。明日から学校が始まるんですから、明日でいいでしょう」
「んー、リクシィとかパパラに聞かれると面倒だし。……ちょっと話しておきたいことがあってさ」
ここはアルトラリア学園男子寮のゼインの部屋。
呼び出されてきたセリアスは、訝しげにゼインを睨んでいた。
「単刀直入に聞くけどさ。セリアス、お前……リクシィのこと、好きだろ?」
「……は?」
あまりに直球な問い。
次の瞬間、顔を赤くする自分に気づき、セリアスは言葉を失った。
その反応を見て、ゼインはニヤリと口角を上げる。
「へぇ。やっぱりビンゴだな。俺に冷たいのも、それが理由だろ?」
「わかりやすくなどない!」
思わず声を荒げるが、その必死さこそが答えだった。
ゼインはわざとらしく肩をすくめ、笑みを深める。
「でも、リクシィは気づいてないみたいだぞ?」
セリアスは言葉を詰まらせ、視線を逸らす。
そんな彼にゼインは逆に問い返された。
「そういうあなたは、彼女のことが好きなのか?」
「んー……どーだろな? どっちだと思う?」
「質問に質問で返すな。それに、わかるわけがないだろう」
「正解は……わかんない、でしたー!」
わざと明るく振る舞うゼインに、セリアスは冷ややかな視線を送る。
「ゼイン、今日はやけにテンションが高いな。……大丈夫か?」
「んー、大丈夫じゃないかも」
ふと伏せられた睫毛の影に、普段の明るさとは違う影を見た。
「どうした? 風邪か?」
「なわけない。至って健康体だよ」
「では、なぜ」
「……恋とかの“好き”って、どんな感じなのかなって」
その言葉に、セリアスの目が鋭く細まる。
「は? 意味がわからない。なぜそんなことを俺に聞く?」
「だってセリアスのリクシィに対する気持ちは、そういう“好き”だろ? だったら、わかってるんじゃないかと思って」
セリアスは一瞬黙り込み、そして小さく吐き出すように言った。
「……人によって違うだろう」
「僕はただ……彼女と一緒にいたいと思っただけだ。それ以上を考えるのは……恥ずかしいが」
その不器用な告白に、ゼインは目を見開いた。
――そして、ふっと笑った。
「……そっか。そうでいいのか」
短く呟き、彼はわずかに視線を落とした。
「じゃあさ」
ゼインは穏やかな笑みを浮かべて言った。
「俺も、好きだわ。リクシィのこと」
空気が張り詰めた。
セリアスは鼻で笑いながらも、視線だけは鋭く向ける。
「……だろうな」
「セリアス、知ってたのか?」
「知るも何も、見ればわかる」
ゼインは苦笑して頭をかき、そして茶化すようにセリアスの頭をわしゃっと撫でた。
「じゃあライバルってやつか。……悪くないな」
「鬱陶しい」
セリアスは手を払いのけるが、その頬はまだ赤い。
ゼインは笑って肩をすくめた。
「俺じゃ身分が足りないかもなぁ」
「……さぁな。アレクサンドラ家なら、どうにかなるかもしれませんが」
「そう? なら安心。これからも仲良くやろうぜ、セリアス」
その声に、セリアスは応えなかった。
ただ胸の奥で――「負けない」という言葉が、静かに熱を帯びていた。




