40:パパラの心配性な夜
どうも皆様、パパラ=サフィアです。
最近、私の存在が空気と化してきています。
というのも――セリアス様はついに恋心を自覚したのか、リクに猛アタックし始めるし、ゼインくんはゼインくんで妹みたいにリクを甘やかしまくるし。
……正直、入る隙がない。
でも今日はそんな二人はいません。
ふふふ、ようやく! リクと二人きりの女子会です。
――なのに。
「ねぇ、リク。何してるの?」
彼女は持ち手のついた筒状の何かをじっと触っていた。
「研究成果を使ってみようかと考えていました」
真顔。可愛い。けど真顔。
「どうやって使うの?」
「見ててください」
そう言って、リクはスイッチを入れた。
ゴオオオッ!!
「ちょ、なに!? うるさいんですけどぉ!」
「魔法が使えない人でも髪を乾かせる道具です!」
リクは得意げにスイッチを切る。
……あぁ、この顔。無邪気すぎて反則。
「夏休みの間ずっと作ってたやつね。どういう仕組みなの?」
「魔力をためた宝石と、風を起こす術式を刻んだ宝石を、スイッチで繋げるんです」
天才か。いや天才なんだけど。
世紀の大発明かもしれない。
「どうやって魔力ためたの?」
「リオは魔力ダダ漏れなので、横に水晶を置いておけば勝手に溜まります。あと、私も少しは魔力を込められますよ」
リオ便利すぎない? まぁそれは置いといて――。
「って結局研究の話しかしてないじゃない!! 今日は恋バナするって言ったの!」
するとリクはキョトンとした顔で、
「恋バナですか? ジェード様の話ですか?」
「ちーがーうっ!! リクの恋バナ! ほら、セリアスとかゼインくんとか、あとは……ジルコリア様とか?」
「ジル様は絶対にないですね」
即答。力強すぎる否定。
「まぁ、それは置いといて。で? リクはセリアスとゼインくん、どっちが好きなの?」
リクは少し考えてから――
「お二人とも優しくていい人ですよ?」
……違う。そうじゃない。
「好きなの? ねぇ、好きなの?」
「好きなのかと言われましても……好きって、どんな感じなんですか?」
出た、リクのポンコツ。
可愛いけどポンコツ。
「なんかさ、一緒にいたいとか、話したいとか……あとは、触りたいとか?」
「お二人と話したり、一緒にいるのは好きですよ。触りたいとは特に思いませんが」
あ、これは重症だ。
「私の見方だとね? どっちかっていうとゼインくんの方が一緒にいて楽しそう。でもさ――この前、セリアスと踊ったときのリク、めっちゃ楽しそうだったんだよねぇ」
「……そうでしたか?」
本当に知らないみたいに首をかしげる。
おいおい、可愛すぎない?
「一言で言うなら、ゼイン様はお兄様。セリアス様は友人……ですかね」
――おいぃ! 恋の波動、皆無じゃん!
「はぁ……まぁ、リクが誰かに少しでも興味持ってる時点で、私としては及第点か」
「なんか失礼では?」
「当たってるでしょう?」
結局、リクはまだ「好き」という感情を知らない。
けど、きっとどこかでその気持ちを知る日が来る。
セリアス様が強引にでもリクを振り向かせるのか。
ゼインくんがいつの間にか掻っ攫っていくのか。
どう転んでもいい。
――リクが幸せになれるのなら。
けどもし、誰かに傷つけられることがあったなら。
そのときは、私とジェードが全力で阻止する。
大事な友達だから。
……そして、こんなにポンコツで、可愛すぎる女の子だから。




