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37:舞踏会の開会

神的な視点

今日はジョイエッリの現国記念日。ちなみに、学園は夏休み期間である。

王城では華やかなパーティーが開かれ、煌びやかなシャンデリアの光が大広間を黄金色に染めている。

香水とワインの香りが入り混じり、耳には優雅な弦楽の音色が流れる。

リクシィは深藍色のロングドレスをまとい、髪をきっちりとまとめていた。

背筋を伸ばして立つ姿はまるで絵画の中の人物のようだ。

パパラは髪をふわりとハーフアップにし、花のモチーフをふんだんにあしらった愛らしいドレスを着ている。

リクシィの隣には弟のエリオット。パパラの隣には婚約者であるジェードが控えていた。

「姉様、研究を中断させられて不機嫌なのは分かるけどさ、ずっと僕の腕を掴んで誰とも踊らないのはダメだってば。」

エリオットは困ったように笑いながら、軽く姉の手を揺らした。

「リオ、私はダンスが嫌いなんですよ。時間の無駄です。」

淡々とした口調だが、掴んだ腕を離す気配はない。

アレクサンドラ姉弟は、周囲には笑顔を見せながらも、声を潜めて小さく言葉を交わす。

「なんだかんだ言って、ダンス超上手いのに? 僕なんかからっきしだよ。」

「リオは可愛いで許されます。私が失敗したら、ブーイングの嵐ですから。」

そんなやりとりの最中、若い青年が二人の前に姿を現した。

「リクシィ嬢、こんな所でお会いできるとは。光栄です。」

セリアスだった。

「セリアス様、こちらは弟のエリオットです。来年から私たちの後輩になるので、よろしくお願いします。」

「初めまして、エリオット=アレクサンドラです。」

「お初にお目にかかります。セリアス=フォルセティアと申します。」

セリアスは一礼したあと、視線をリクシィに戻す。

「すみませんが、リクシィ嬢――僕と一曲、踊っていただけませんか?」

その瞬間、リクシィの胸の中には二つの相反する感情が渦巻いた。

仲の良い友人として断るのは気が引けるが、正直、人前で踊るのは面倒だ。

しかし、大切な友人に恥をかかせるわけにもいかない。

「リクシィ様、フォルセティア様と踊られるのですか? 美しいお二人が踊る姿を想像するだけで胸が躍ります。」

近くにいたジェードが、やけに芝居がかった調子で言う。

どうやらその背後で、パパラが嬉しそうにこちらを見ている。

それを察したリクシィはパパラを一瞥し、静かにセリアスの手を取った。

「えぇ、もちろん。私でよければ。」

その顔には、滅多に見せない作り物めいた完璧な微笑みが浮かんでいた。

セリアスはそれを見て、一瞬だけ言葉を失う。

「……リクシィ嬢、すみません。そんなにお嫌でしたか?」

彼は、他の誰にも聞こえないように声を落として尋ねる。

「お気になさらず。私はどうも人前で踊ることに抵抗がありまして……ですが、セリアス様と踊ることは全く嫌ではありません。」

そのやりとりを、偶然にもエリオットが耳にしてしまったらしい。

驚愕の色が彼の瞳に浮かぶ。姉が人と踊ることを「嫌ではない」と言った――それは、彼にとって信じがたい事実だった。

演奏が今にも始まろうとしている。

セリアスは、差し出した手に感じるリクシィの温もりを確かめながら、一歩、舞踏の輪の中へと踏み出した。

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