35:市場の無自覚デート
ここが市場! 色とりどりの布で飾られた屋台が並び、香ばしい匂いや甘い香りが入り混じる。人々の笑い声、呼び込みの声、鉄板の上で油が弾ける音――まるでお祭りのようだ。
「そんな楽しいか? なら誘って良かったわ!」
「はい! ゼイン様、本当にありがとうございます!」
浮かれていたせいで今気づいたが、ゼイン様は私服ではないか!
一方の私は制服……これはさすがに場違いだ。よし、着替えよう。
ゼイン様の服装は、灰色のシャツに黒い細身のズボン。動きやすそうで、シンプルなのにどこか洗練されている。やっぱり、センスがいい。
それに合う服……あれでいいか。
「ゼイン様、ちょっと待っていてください」
「了解」
路地裏に身を隠し、魔法を発動する。
白い襟付きのシャツに、さらりとした黒のワイドパンツ。
以前作ってみたはいいが、着る機会を流していた。
この世界では少し珍しいだろうが、これなら浮かないはず。
「お待たせしました」
ゼイン様は私を見て目をぱちくりとさせた。
「変ですか?」
私の問いに、彼はハッとしたようにまばたきをして――
「いや、すごい似合ってる」
あんまりまじまじと見られるから、さすがに頬が熱くなる。
「いっ、行きましょう!」
彼の腕を引っ張る。
「引っ張るなよー。第一、リクシィここ初めてだろ? 迷子になったら大変だ」
良かった。ゼイン様、いつもの調子に戻っている。
「何か食べないか? こんなに屋台がいっぱいあるんだ、選び放題だ!」
「ゼイン様は食べることが好きなのですか? ルミナフェスタでもたくさん召し上がっていましたし」
「そうだ! 何かを食べることって、生きる上で必ず必要だろ? だったら、その行為に価値を見出せる方がいい!」
確かに、理にかなっている。
「私は研究に熱中して、よく食事を忘れてしまいますが……その考え、素晴らしいと思います」
「リクシィらしいな。えっと……おじさん! その串焼き二本ちょうだい!」
香ばしい煙を上げる屋台のおじさんが笑顔で声をかける。
「ゼインじゃないか! 綺麗なお嬢さんだね、彼女かい? 隅におけないねぇ」
「同じ学園の子! 綺麗なのは同意するけどなぁ。ありがと!」
ゼイン様は軽く笑って、私に串焼きを差し出す。
「リクシィ、前に串焼き美味しそうに食べてただろ? ここのも美味しいから食べてみて!」
「ありがとうございます」
口に入れると、表面は香ばしく、中は肉汁が溢れ……熱っ! でも、美味しい。
「ゼイン様、すごく美味しいです」
「顔見たらわかるわ! すっごく気に入ってくれたみたいで良かった」
「代金を教えてください。払います。ここは都市部ですからお金で支払われましたよね?」
「んー? 内緒ー。気にしなくていいの。前にすっごい綺麗な宝石もらっちゃったし」
……この調子では、絶対に受け取ってくれなさそうだ。
なら、あの道具を完成させよう。そうすれば、きっと喜んでくれる。
「リクシィ、何考えてんの? まだまだ美味しいものあるからさ、食べ歩きと行こう?」
「はい!」
その後、甘い蜂蜜パイ、香り高いハーブ入りパン、冷たい果実水――気づけば両手がいっぱいになるまで買い込んでいた。
笑い声と屋台の喧噪に包まれ、時間があっという間に過ぎていく。




