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32:魔法ショーの裏側で

最初、先生視点で、後半リクシィ視点です。

(スピンネル先生視点)

目の前の少女は、驚きに目を見開いた。

「……えぇ。知っています」

やっぱり――そうだった。

髪の色も、瞳の色も違う。それでも、顔立ちの輪郭や、感情が動いたときの表情は変わらない。

研究にのめり込む狂気じみた情熱も、危険を顧みず人を庇う癖も、そのままだ。


「じゃあ……私のこと、覚えてる? 化学部の――」

……覚えているに決まっている。


私は、前世でこの子を殺したのだから。


(リクシィ視点)

スピンネル先生は、なぜ私の名前を知っているのだろう。

それに「覚えている」とはどういう意味なのか。

化学部――前世で私が所属していた、小さな部活。

部員は少なく、ほとんどが男子で、みんな私には敬語で話していた。

スピンネル先生が女性なら、前世もきっと女性だったはず。


そこから導き出される名前は――

「……玲さん?」


先生の瞳が大きく見開かれ、今にも涙が零れそうになる。

「ごめんなさい、美月……! 私は取り返しのつかないことを――!」


土下座でもしそうな勢いで、彼女は謝罪の言葉を吐き出す。

「どういうことですか……?」


頭が混乱し、思考が追いつかない。

少しでもいい、整理する時間がほしい――そう思ったそのとき。


コン、コン。

控えめなノックが響いた。


「リクシィ嬢、いらっしゃいますか?」

セリアス様の声だ。突然いなくなった私を探してくれたのだろう。


「この話は……また後日でもいいでしょうか?」

混乱を押し隠しながら尋ねると、先生はわずかに目を伏せ、そして頷いた。

「……もちろん。明日は空いていますか? お昼頃、職員室へ」


私はその提案を受け入れた。

「迷惑をかけてごめんなさい。私、少し一人になりたくて……だから、残りの魔法ショーを楽しんできて」


彼女はまだ顔色が悪かったが、私にできることはなかった。

「では、失礼します」


静かに扉を開ける。

「リクシィ嬢!/リクシィ!」

二人の声が重なった。

「すみません、突然いなくなってしまって」


私の顔を見たセリアス様は安堵のため息をつき、ゼイン様は「よかった」と笑う。

「本当に心配したんですよ! 花火に見惚れていたら、いなくなっていて!」

「まぁ、いいじゃん。見つかったならさ! それより続き見に行こう?」


ゼイン様が私の手を軽く引く。

外に出ると――雪が舞っていた。


「花火はショーのメインじゃなくて、四季の移り変わりを見せるのが本番らしいですよ」

セリアス様の声が耳に届く。


雪……これはきっと魔法で水蒸気を作り、急速に冷やして降らせたのだろう。

あるいは、ひとつの魔法で直接雪を生み出したのか。

そんなことを考えているうちに、ショーは終わってしまっていた。


「リクシィいなかったけど、花を作り出すのが俺は一番好きだったな」

「僕は花火です。とても綺麗でした」


「そうですね……綺麗でした」私は短く答える。


「あ、チェスセット。今日は研究室を案内するつもりだったんですが……」

「気にしないでください。また後日」

セリアス様は柔らかく微笑む。


「また今度連れてってくれよ!」

ゼイン様が少し乱暴に頭を撫でる。

私はなんとか笑顔を作り、それに応えた。


結局、チェスセットは一人で取りに行き、それを二人に渡してから別れた。


明日、一体どんな話をするのだろう。

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