3:知識を得るために
今日は、魔力量検査の日。
貴族の子どもたちにとっては将来を左右する大切な日だけど、私にとっては――
(別に多くなくてもいい。ただ、研究に使えるくらいあれば十分!)
「リクシィ=アレクサンドラ様ですね〜!じゃ、こちらの水晶に手を置いてくださいっ!」
ハキハキとした声に顔を上げると、施設長らしき女性がにこにこと私を見ていた。
白衣のようなものを着て、くしゃっとした赤茶の髪を無造作に束ねている。年齢は……たぶん20代半ば?
年上なのに、ちょっと子どもっぽい雰囲気の人だ。
水晶……確か石英、だった
私がじっとその水晶を見つめていると、施設長が首を傾げて笑った。
「おーい大丈夫?」
「いえ、すみません。手を置きます」
手をそっと水晶にのせると、指先からふわりとぬるいものが体を巡っていく。
(なんともいえないこの感じ……ぬるぬる、ほわほわ……)
そして水晶が、じわじわと黄色に染まり始めた。
「――えっ」
施設長の目が、ちょっとだけ見開かれる。
「えーっと、リクシィ様って魔法使ったことあります?」
「ありません」
「まじで? ないのに黄色って、すっご! はいこれ、ちょっとした珍事!」
……と、突然テンションが上がる施設長。
さっきまでにこにこだったのが、今はニヤニヤしてる。
「えっと、すみません、つまりどういうことでしょうか」
と父様が私の横から口を挟む。
「あー説明しますね!この水晶って、魔力量に応じて色が変わるんですよ。無色、青、紫、ピンク、黄色、緑、赤の順!で、普通は初めて測る子って青か紫なんです。でもこの子、初回で黄色!」
「つまり……?」
「うん、魔力が多い!すんごい多い!さらに体の器も安定してるし、暴走の気配もなし。はい天才〜!」
思わず吹き出しそうになるけど、施設長は真顔でサムズアップしていた。
(……この人、面白い)
「リク、すごいぞ……!」
父様が感激しているけど、私はもう別のことを考えていた。
(これって、施設に通う言い訳になるのでは?)
「――あの、私、魔力が多いんですよね?」
「うんうん、そうだよ〜!」
「なら、魔力や魔法のことをもっと学ぶべきだと思うんです。ここで、勉強させてください!」
施設長の表情が固まる。
父様も「えっ?」って顔してる。
けど、ここで引くわけにはいかない!
「お願いします!施設見学でも掃除でも何でもします!私、知りたいんです!」
「……いいよ?」
「えっ」
「だっておもしろそうだもん!天才少女リクシィちゃん、大歓迎〜!わーい!」
「あ、ありがとうございます……!」
父様はまだポカンとしていたけど、私は心の中でガッツポーズ。
この日から、私は研究施設に自由に出入りできるようになった。
元気で自由でちょっと変な施設長、タンザ=スヴァレと一緒に。