26:重なる姿
ゼイン視点です。
今、俺とパパラは舞台袖に下がっている。
ステージの中央、ひとりスポットライトを浴びるカイ王子――いや、リクシィが演じるカイ王子の姿がある。
「俺の汚れきった命で、この戦争を終わらせられるのなら……人柱とならない道理はない!」
張り詰めた声が講堂中に響く。
リクシィは「自分とカイ王子は似ていない」と言っていた。だが――試験のとき見せた、あの自己犠牲の行動。
そっくりじゃないか。他人のために身を投げ出すところまで。
「ちょっ、ゼイン!」
パパラの制止が耳に届く前に、気づけば俺は舞台へ一歩踏み出し、リクシィの腕を掴んでいた。
……何やってんだ俺! 体が勝手に動いた。
驚いたようにこちらを見るリクシィ。その目に、ほんの一瞬素の彼女の色が混じる。
「ジルか。どうした、もう寝たのではなかったか?」
アドリブで台詞を繋げてくれる。けれど、頭が真っ白で返事が出てこない。
「もしや……俺がしようとしていることを察したのか」
静かに、しかし確かな声で言い、俺の手を握り返してくる。
「ジル、迷惑をかけてすまない。……エルシアとともに、人々を守ってくれ」
そう告げると、懐から手紙を差し出し――次の瞬間、俺の体は転移魔法でパパラの元へ飛ばされていた。
「……あんた、何やってんの!?」
舞台袖で小声の怒声。
「わからない……ただ、いなくなりそうに見えたから」
「はぁ……まぁ、リクが上手く捌いてたからいいけど。魔法で舞台を暗転させて、一瞬でセットを変えて、自分が別の場所に転移した様に見せたんだよ。脚本に繋がるように」
……やっぱりすごいな、リクシィ。
カイ王子が宝石を破壊するために自害するシーンが終わり、舞台が暗転。パパラと俺は再び舞台に出る。
「姫様、カイ王子からの手紙が」
「本当!? なんて書いてあるの?」
「『俺が人柱となる。あなた方は、混乱に陥った二つの国をまとめ、導いてくれ』――と」
エルシア姫の瞳が大きく見開かれる。
「そんな……! 早く止めに行かないと!」
その叫びをかき消すように、舞台が眩い光に包まれた。
「姫様……もう……」
「そんな……嘘……。でも……私の体に……闇の魔力が……流れて……」
涙をこぼしながらも、エルシア姫は前を向く。
――ここからは一気に物語が進む。
彼女は新しい国の女王として立ち上がり、亡きカイの願いを叶えるために全てを背負う。
ジルはその日から死ぬまで、ただ一人の主に忠義を尽くし続ける――。
幕が降り、クラス全員が舞台に揃って深く一礼する。
嵐のような拍手が講堂を満たし、俺は息を吐いた。
……後でリクシィにお礼を言わないと。




