23:2人の距離感
「リクシィ、今日パパラ遅い日だよな? 係の集まりとかで」
「そうですね。いくら楽とはいっても、一、二回は集まりがあるらしいので」
「じゃあさ、パパラ待ってる間、髪いじっていいか?」
「……唐突ですね。まあ、いいですよ」
リクシィの髪は長くて、いじりがいがある。
艶々してて、指を通すとさらっと落ちる。
……正直、ちょっと楽しい。
「私の髪、そんなに見ていて楽しいものですか? 正直、長くて鬱陶しいですよ。こまめに切るのも面倒で、伸ばしているだけですし」
「お嬢様らしいな、それも」
「俺の地域じゃ、魔法使える人がそばにいないと髪なんて伸ばせないんだ。冬は乾かせなくて寒いからな」
リクシィの目が「なるほど」という顔になっていて、ちょっと面白い。
「俺の妹も、俺が魔法で乾かしてやれる間は伸ばしてたけど……俺が寮に入ったから切っちゃうかもな」
「ゼイン様、少し動いてもいいですか?」
いいと言うと、リクシィは鞄から紙を取り出し、さらさらとペンを走らせる。
「何書いてるんだ?」
「いいことを思い出したので、忘れないうちに。ふふ」
……たぶん、また研究関係だろう。
髪、いい感じに仕上がったな。
「お待たせー! やっと終わったよぉ!」
パパラが勢いよくドアを開けて入ってきた。
「おー、お疲れ」
「……って、どういう状況? 二人とも?」
まあ、そうなるよな。
「ゼイン様の髪を乾かしています」
「いや、なんで乾かしてるの?」
俺も聞きたい。急に「髪濡らしてもいいですか?」って聞かれて、「実験です」なんて真顔で言われたら、断れないだろ。
パパラの顔が一気に死んだ目になる。
「ゼインくん、嫌なら付き合わなくていいんだよ。あと、リク。ゼインくん、一応男子だよ。その距離感でいいの? ドキドキとか、キュンとかないの?」
「あー、はい」
……絶対聞いてないな、この人。
まあ、俺は別に嫌じゃない。むしろこの距離感、けっこう好きだし。
「ゼイン様、できました! 風、ちょうどいいですか?」
「……ああ、いいと思う」
思うけど、さすがに近い。
嬉しそうに笑うリクシィ。三つ編みがふわっと揺れた。
「良かったな」
そう言って頭を撫でたら、パパラが固まった。
「あー……二人とも距離感おかしかった。忘れてたわー。あの色男可哀想に」
なんかぶつぶつ言ってるけど、聞き取れない。
「はいはい! 練習、練習!」
パパラが木刀を二本、ぽんっと放ってよこす。
「よし、やるか!」/「始めましょう」
こうして、今日も劇の練習が始まった。




