2:研究者の目覚め
「魔法の研究?どうしてそう思ったんだい?」
そう尋ねたお父様の声は、柔らかいながらも本気の問いだった。
前世では存在しなかった概念――"魔法"。その仕組み、成り立ち、可能性。それらに私はどうしようもなく惹かれていた。でも、この気持ちをうまく説明するのは難しい。
「“魔法は宝石を媒介として発動させることがある”と、この本に書いてありました。もしそうなら、他の物質――例えば植物でも代用できるのでは?と考えたんです。
それができた場合、魔法が発動する原理はどうなっているのか。そもそも魔法って、どうやって生まれたのか……」
止まらなかった。
前世で抱いた好奇心が、熱をもって言葉になって溢れ出す。
「……とにかく、知りたいんです。魔法の本質を!」
気づけば、立ち上がって声を張り上げていた。自分でも驚くほど大きな声だった。
お父様とお母様は、一瞬目を見合わせた。
エリオットは……というと、目をぱちくりさせて、きょとんと私を見つめている。
「リク……あなたの熱意、ちゃんと伝わったわ」
お母様がふわりと微笑み、私の頭を優しく撫でる。
「ちょっと驚いたけど、あなたは本当に賢いのね」
「そうだな。めったに我儘を言わないお前が、そこまで言うなら……」
お父様は笑みを浮かべて椅子から立ち上がる。
「少し時間をくれ。すぐに手を打とう」
「本当ですか!?ありがとうございます、お父様、お母様!」
胸の奥が、どくんと大きく高鳴った。
「この機会、必ず自分の糧にして――立派な研究者になります!」
そう叫ぶ私に、エリオットがちょっと心配そうにぽつりと笑う。
「姉様、すごく嬉しそう。よかったね」
私は、前世で最後に抱いた後悔と夢を思い出す。
――実験の管理が甘かった。
――火災を起こし、他の人を巻き込んでしまった。
――でも、それでも私は――研究を、やめたくなかった。
仮説を立てて、それを証明すること。未知を追いかけて、真実に触れること。それこそが私の生きる意味だった。
たとえ周囲にどう思われても、私はまたこの手で研究を続けたい。
だけど、研究には当然お金がかかる。
公爵家とはいえ、無限に資金があるわけではない。領民の暮らしに支障が出るようなことはしたくない。
だから、今の私に必要なのは三つ。
知識、資金、協力者。
でもその前に――
「私は魔法を使えるのかしら」
明日、6歳を迎えた貴族の子供たちは、みな魔力の有無を調べる「魔力量測定」を受ける。
もちろん私も、その検査を受ける予定だ。
もし魔法が使えなかったとしても、研究自体はできる。
だけど、実際に自分で魔法を試せるなら、それに越したことはない。
だって、それは――
「研究者のロマンだもの!」
誕生日パーティーが終わったあと、私は自分の部屋のベッドにもぐり込んだ。
明日を迎えるのが、待ちきれない。
こんなにわくわくしながら眠りにつくのは、人生で初めてかもしれない。