17:呆気ない決着
(ゼイン視点)
「ゼイン様、やってくれましたね。背中も痛いし、口の中は切って血まみれです」
リクシィが顔をしかめて、文句を言ってくる。
悪かったよ……まさか、本当に庇うとは思わなかったんだ。これでも手加減したつもりだったけど。
けど、そんな言葉は飲み込んだ。ここは戦場。感情を挟むべき場所じゃない。
──氷よ。
足止めのつもりで氷の魔法を放つが、当然のように防がれる。
「ゼイン様は、勝負には真摯なんですね」
一歩踏み出し、柔らかな笑みを浮かべながら彼女は続ける。
「私、勝負ってあんまり得意じゃないんです。でも、味方を攻撃されるのは……ちょっと嫌です」
──障壁よ。
動きを封じるための障壁も、発動を阻害され無効化される。
「ねぇ、ゼイン様」
再び詠唱。今度は自分を守るための防御障壁。
けれど、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった次の瞬間——
「リクシィ、なんで障壁の内側にいるんだよ」
「転移しました」
「まじか……すごいな」
眠気が、急速に意識を曇らせる。
この匂い……眠りの魔法か。
「眠いな……もう少し時間を稼ぐつもりだったのに……パパラに……謝っといてくれ」
意識が落ちる寸前、彼女の髪が揺れたのが見えた。
(リクシィ視点)
ゼイン様が戦闘不能と判断され、結界の外へ転送される。
眠りの魔法の残り香が体にまとわりついていて、まだすぐには動けない。
でも、私は急がなければ。
通信用のルビーに魔力を流し込む。
『アレクサンドラ嬢!無事ですか? ゼインは転送されたようですが――』
「大丈夫です。今からパパラのところに向かおうと思います。位置は把握しています」
『わかりました。どうかご無事で』
通信を切ると、転移魔法を発動する。
* * *
「うわああっ!? ってリク!? いきなり出てこないでよぉ!」
突然の出現に、パパラが大袈裟に跳ねのけるような反応を見せる。
「ゼインくん、もう負けちゃったの?! えー、まだ準備できてないってばー!」
「パパラ。観念してください」
彼女は眠りの魔法が効かない特異体質。
それは分かっているけど、私は正面から挑む。
「もういいや! 捨て身でいくしかないっ!」
周囲に小爆発を起こすが、すべて障壁で防いだ。
「反則! そっちばっか無傷とかずるいって!」
「それは、そちらも同じでしょう?」
彼女は魔法をほとんど無効化できるけど、そのぶん魔力が少ない。
「こーなーいーでぇー!」
叫びながらトラップを投げてくるが、発動前に破壊。
ついでに結晶へと魔法を叩き込み、粉砕する。
「嘘!? もう負けたぁ!? ゼインくんもっと粘ってよぉ!」
しばらくわめいたあと、彼女はくすっと笑って手を差し出してきた。
「まいりました。降参です。リクには勝てないって分かってたよ。ね、魔力ちょっとちょうだい。転移できない」
「……パパラ、あっけらかんとしすぎです。せめてもう少し悔しそうにしてください」
笑いながら魔力を分けてやると、彼女はふにゃっと笑って手を振る。
「ふっふっふー、ありがと。じゃあまた後で!」
そう言って、彼女は結界の外へと消えていった。




