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第2話 魔法学園という場所の事



 余程の事がない限り、上級貴族は『満月』クラスに仕分けられる。


 学園では、同学年を『満月』と『新月』の二つのクラスに分けている。

 『満月』には成績優秀者が、『新月』はそれ以外の人間が振り分けられるのだが、上級貴族は基本的に『満月』に割り当てられる事になる。


 理由は色々。

 純粋に『実力を測れば自ずとそうなる』というのもあれば、階級社会で成り立っている王国の学園であるが故に、多少の忖度も孕んでいる。


 これらは、誰もが知っている事。

 暗黙の了解。

 そう、家にあった“アンネルの手記”には書かれていた。


 そこに書かれているのは、七年前にこの学園の学生だった筆者のアンネルがの経験談だ。

 生徒でさえ知っていたその辺の事情を、大人が知らない筈がない。



 ……まぁ実際には、そう驚くような事でもない。

 私が『新月』に振り分けられたのは、上級貴族という下駄を履かせても尚、入学試験で結果が振るわなかったというだけの話である。


 私の魔法に関するアレコレは、私が『空気』であるのと同様に結構有名な話だと思っていたのだけど、この人の反応を見る限り、実はあまりそうでもないのだろうか。


「では、レミリスさん。まずこちらの『校章カフス』をお持ちください」


 受付の彼女が、コホンと小さく咳払いをしてから話し始めた。

 おそらくすべての学生に行っているのだろう役割を、これから一通りなぞるのだろう。


「このカフスは、学園が支給する『学園からの連絡事項通達機能付き学生証明書』兼『魔法ホルダー』です。私のは教師用ですが、このように一度カフスに触れると、学園からの連絡事項の通達を表示する事ができます。短時間に二度触れることにより、身分証が表示される仕組みです」


 言いながら、彼女が腕の袖に付けていたカフスをトントンと二度軽く叩いてみせる。

 すると、おそらく光魔法の応用だ。

 何もない宙に、青く光る線で彼女の顔と氏名や年齢、所属などがパッと表示された。


 所属には、『伯爵令嬢』『ミリアーデ国立魔法学園教師』という記載が並んでいる。

 どうやら彼女はただの受付役ではなく、この学園の教師でもあるらしい。


 歳は二十二とあるのに、いまだに伯爵《《令嬢》》なのは、おそらく独身だからだろう。

 ……れっきとした個人情報だ。

 二十二歳で独身の令嬢というのは、通例の貴族令嬢から外れた、あまりよくない意味の『訳アリ』に部類されるだろう。


 そんな情報を自ら晒してしまった事に、どうやらこの先生は気が付いていないようだけど。



 手記に“学生証明書を見せびらかすのは、バカのする事”と書かれていた事を思い出す。


 手記を読めば分かるけど、筆者のアンネルは少しばかり率直で粗野な性格だったらしい。

 そのせいで手記には他の生徒との度重なる衝突も書かれているのだが、今回の件に関して言えば、口の悪さが災いしてはいるけど、意見は比較的真っ当だと思う。


 あまり積極的に、学生証明書を他人に見せない方がよさそうだ。

 こっそりと、肝に命じる事にする。


「『魔法ホルダー』機能については、最初の方の授業で登録方法などの詳しい説明はあると思いますが、簡単に言うと『このカフスは、あらゆる簡易魔法を三つだけ、登録する事ができる媒体になっている』という事です。随時入れ替え可能ですので、色々と試しながら登録魔法を考えてみるといいですよ。――それでは、次。当校の『兄弟・姉妹制度』について」


そう言うと、彼女はピッと人差し指を立てて自慢げに教えてくれる。


「この制度は、下級生の無知や不便を助ける上級生が一人に付き一人ずつ付く、というものです。これから始まる寮生活におけるルールや学校での過ごし方など、様々な事を教えてくれる相手であり、男子には兄が、女子には姉がそれぞれ一人ずつ付けられます。これは他国にはない我が校だけの制度であり、下級生は上級生から様々な知識を貰い受ける事で成長し、上級生は教える事でその知識を復習し完全に習得するための、とても素晴らしい制度です!」


 今にも「ふふん♪」というご機嫌な声が聞こえてきそうな勢いだ。

 例の手記にも似たような教師の話が書かれていたけど、彼女もかなりこの制度に誇りを持っているらしい。


「余程の事がない限り人員の交代はありませんので、仲良くしてくださいね? レミリスさんのペア『姉』になる方は、学生証明書の欄にもありますが――って、あれ?」


 つい今までスラスラと話していた彼女の勢いが、何故かここで急に止まってしまった。


 どうしたのだろう。

 困惑に眉尻を下げた彼女の手元を、失礼に当たらないようにさりげなくチラリと見てみると、名簿の私の『姉』の欄だけ何故か空欄だ。


「おかしいですね。何故このような……ちょっと待っていてくださいね?」


 そう断りと入れた彼女は、私のだと言われたあのカフスを名簿と共に手にし、席を立つ。

 彼女が向かったのは、受付の後ろの方で腕組みをしていた――受付の人たちの監督官だろうか――老年の男性の元だ。





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