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第18話 私の刻印とお祖母様



「『妹』を見つけるのは、『姉』の特権。なら、『妹』と初めて魔法を使うのも?」

「『姉』の特権……?」

「正解! 流石は私の『妹』だね!」


 褒め言葉に心をほんわりさせていると、「じゃあ行くよ!」と声が掛けられる。


「えっ、あの!」

「大丈夫だよ、落ち着いて。やる事は簡単。手の中を温めるつもりで、頑張る!」

「が、頑張る?!」

「そう。大丈夫、できるから」


 できるから。

 その優しい声に純粋な私への期待が込められているような気がして、続いた「はい。じゃあまずは深呼吸」という言葉に倣う。


 ゆっくりと目を閉じ、「そうだった」と思い出した。

 私は、お姉様を信じようと決めたのだ、と。


 お姉様が信じる、私を信じる。

 午前中も、それでうまくいった。

 ちゃんとお祖母様の魔法媒体を、自分の物に上書きできた。

 それなら、きっと今回だって。



 自分を信じてみる事にする。


 もしダメだったら、その時にまた考えればいい。

 ユーお姉様はそう言ってくれた。


 失敗しても、お姉様は一緒に考えてくれる。

 離れて行かない。

 大丈夫。



 手の中を温めるつもりで。

 そう、先程お姉様は言った。


 魔力の出し方は分からない。

 本で読んで散々試してみたけれど、結局分からずにここまで来た。

 でも、そういう感覚なら何となく分かる。


 何となくでいいのかは、分からないけど。

 そんな事を思いながら、お姉様の手に包まれた自分の手の中の空間に意識を集中させ、真剣に「温まれ……!」と念じる。


 瞬間、手がズレたかのような、魂がほんの少し何かに吸い込まれるような、そんな不思議な感覚がした。


「……うん。ゆっくり手を開けてみようか」


 ハンカチを持った手を、言われた通り開いてみる。

 すると、そこには淡い光を放ったレモンと蔦が投影された手のひら大の球体が浮いていて。


「刻印を映し出すだけの、ただの遊び魔法だけどね」


 ただの、ではない。

 お祖母様が使って見せてくれた魔法と、同じ輝きを持つそれは、間違いなく私がずっと求めてできなかった、れっきとした魔法の発現だ。


「普通の『刻印投影』は、自分の刻印だけを映し出すものだった筈だけど、レミリスさんのは蔦も含めてできていますね。もしかしてこの光っていない部分も、レミリスさんの刻印の一部なのでしょうか」

「あ、いえ。これは、お祖母様の刻印で」


 お祖母様の魔法媒体を私も使う事にしたのだ。

 そう説明したところ、彼女は納得しながらも「だとしたら不思議な光景ですね」と言いながら、刻印入りの球体を様々な角度からしげしげと眺め始める。


「蔦には『絆』という刻印言葉がありますが……」

「あ、分かった! レミリスのお祖母ちゃんの『繋ぐ』特性が、お祖母ちゃんの刻印とレミリスの刻印も繋いだとか!」

「つまり、刻印を上書きした事で、レミリスの刻印はお祖母様の刻印を内包するものになった、と?」

「何言ってんのかよく分かんないけど、多分そう!」


 顎に手を当てて考えているシルビア様に、ユーお姉様がビシッと指をさす。



 私は、改めて手元に視線を落とした。

 そこには私の魔法媒体、私とお祖母様の刻印が共存している。


「お祖母様……」


 彼女たちの言う事が、事実なのかは分からない。

 刻印言葉はあくまでも「もし刻印に意味を持たせるのなら」という体の物であるし、その刻印が発動する魔法に影響を与える可能性については、一仮説として存在するものの、証明されていなかった筈だ。


 でも。


 亡くなっても、お祖母様は私に寄り添い、見守っていてくれているのかもしれない。


 そう思えば、一層心強くて。


「シルビア姉様、私もその魔法使ってみたい」

「あら、ノスディー。では私と一緒にやってみましょう」


 口数の少ないノスディアからの要望に、私の出した球体から、シルビア様の興味はすぐに彼女に移ったのだった。






 その二人の初めての共同作業を、傍から見て「楽しそうだな」と思ったのよね。

 自身の手元に目を落として、そんなふうに思い出す。


 普段はそれ程表情を変えないノスディアも心なしか嬉しそうで、シルビア様に至っては、『妹』のおねだりが嬉しかった様子だった。


 ――私とユーお姉様の共同作業も、こんなふうに見えていたのかな。

 そう思えば少し恥ずかしく、しかし嬉しくもあったのだ。



 そんな事を思い出がこれから始まる初めての実技授業への不安など、簡単に吹っ飛してしまっていた。


 それは時間になりメオリ先生が教室内に入ってきても、変わらず私の心を占めてくれていた。




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