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第14話 大聖堂



 媒介作り――正式名称【使魔媒介錬成の儀】は、大聖堂と呼ばれている場所で行われるけど、その建物は生徒たちのみの入室が禁じられている。

 故に生徒たちは、授業開始時刻に自クラスの教室に集まり、そこから教師の引率の下、皆で大聖堂に移動する。


「大聖堂は、あれですよー!」


 先頭を歩くメオリ先生が、私たちの方を振り返りながら元気よく言う。


 そこにあったのは、純白の教会。

 一切の挿し色もない、正真正銘の真っ白さだ。


 ……アンネルの手記には「大聖堂はここが学園として機能し始めた時に建てた、敷地内に現存する建物の中ではミスリル城の次に古い物だ」と書いてあったけど、まったくそうは見えないわ。


「大聖堂には、古の保護魔法が掛けられています。術者の死後もずっと効果を発揮し続けるという規格外を成すのが『いにしえ』と呼ばれている魔法ですが、意図的に破壊しようとすればできない事はありません。現時点で確認されている古の魔法の対象物は、世界に全部で三つですが、これはその内の一つでもあります。魔法学的にも魔法歴史的にも、この大聖堂はかなり貴重な物だという事ですね」


 古の魔法については、今でもそれを研究題材にしている魔法使いが多くいる。


 研究成果を文献に纏めているものも複数あるけど、お祖母様の書庫にあった物によれば、現存が確認されている三つは、この大聖堂にかけられている『保存』の他は、エルフの剣にかけられた『取り寄せ』と人狼の盾にかけられた『倍化』。

 どれもそれ一つで戦場の行く末を決定づけるようなものではないけど、その本曰く「だからこそ、戦場で壊れるような事なく、この時代まで残り続けた」のだそうだ。


「大聖堂は、魔法使いにとって神聖な場所です。騒がず、ふざけず、真面目に儀式に向き合う事。大聖堂内での私語も、基本的には禁止ですよ!」


 分かりましたか? と尋ねたメオリ先生に、「はい」と答えたのは、約半数。

 チラリと周りを見てみるに、彼女の言いつけを守る気がないというよりは、彼女の事を侮っているだけのように見える。


 それでもまったく気にしていないように見える彼女に、密かに尊敬の念を抱いた。


 まっすぐ胸を張り、笑顔を絶やさない。

 その姿は正に「自分を信じる強さこそが、魔法使いの力に影響する」という魔法の真理に基づいた、自身への誇りを持っている人間のソレに、私には見えた。




 メオリ先生が、大聖堂の扉に手をかける。

 ゆっくりと押し開くと、その向こうに見えた景色――窓から日の光が差し込む、長椅子と祭壇のある一般的な教会の景色が、ゆらりと揺らいで。


 生徒たちの空気が、ザワリと揺れる。


 次の瞬間には、長椅子も祭壇も、何もなかった。

 あった筈の窓さえなくなって、室内の光源は扉から差し込む物だけになった。


 それを見ていたのは、私だけではない。

 この場にいる全員が目撃者なのだから、今の急激なまでの変化は、すべて見間違いや気のせいで片付けられるような類のものではない。


「大聖堂は、儀式を行うための場所です。最初の来訪者が実施したい儀式に、最適な環境を整えてくれます。これは、これから行う使魔媒介錬成の儀は、心を静め、落ち着けて、己と向き合うための儀式ですからね。このように少し暗い方が、集中しやすいのですよ」


 言いながら、メオリ先生が「ライト」と唱える。

 彼女の周りに手のひら大の、オレンジ色の光の玉が三つ生まれた。

 それらはすぐに彼女の傍から離れ、部屋の端に等間隔に散り、暗かった室内を適度に照らす。



 メオリ先生の後に続く形で、私たちも室内に入った。


 後ろで扉がバタンと閉まる。

 どうやら意図して閉めた訳ではないようで、最後尾の子がビクッと肩を大きく振るわせていたけれど、それを見たメオリ先生が優しく微笑み「大丈夫です、閉じ込められた訳ではありません。全員入ったので、大聖堂が閉めてくれただけですよ」と言った。


「さて。では早速始めましょう。これから行うのは、使魔媒介錬成の儀。魔力を魔法に変換する際の、変換効率を上げるための媒体作りの儀式です」


 言いながら、彼女は教師然として、体ごと私たちの方を向く。


「必要なのは媒体と、術者の魔力。そして正しい環境です。環境は、大聖堂が準備してくれました。魔力は術者本人がいれば問題ありません。後は媒体。皆さん、ちゃんと持ってきましたか?」


 その声に、生徒たちはそれぞれの行動を見せる。

 ある者は懐から杖を出し、またある者は「当たり前だ」と言わんばかりの顔をしながら、最初から持っていた扇で自身を扇ぐ。

 中には手の中にある、小さな宝石を見ている人もいて。



 一般的に「魔力伝導率が最も高いのは金属造りの杖だ」と言われているけど、理論的には必ずしもそうではない……というのは、魔法概論の本に載っている内容だ。



 ――大切なのは、「その媒体でなら魔法を使える」という信頼と自信だ。

 馬鹿な貴族が高価な媒体を見せびらかしていたが、きっと奴らは信頼と自信は金でしか買えないとでも思っているのだろう。


 というのは、アンネルの手記に書いてあった事である。



「魔法は想いを形にします。心の在り方、願いの強さ、自分にはできるという自信。そういったものが、魔法の完成度に大きく影響します。この儀式は、これから貴方方の大切な相棒となる媒体に、自身の信頼を刻むための物です。貴方が今日持ってきたその子たちを、その子たちと貴方たちの絆を、まずは信じてあげてください」


 メオリ先生はそう言うと、半身になり「さぁ」と自身の後ろにある魔方陣を手で示す。


「それでは、順番に始めていきましょう。一人ずつ、部屋の中央に描かれたあの魔法陣の真ん中に立ってください」




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