アンドロイドたちの夢、その終わり
人間の好奇心による科学力はいつの頃からか、魔法と何ら変わりないものとなっていた。
そのうちの一つであるアンドロイドはまるで人間と同じように喜び、苦悩し、成長した。頑丈な体、優秀なデータ処理能力。労働者としても経営者としても人間より優秀であり、科学者達は『次世代の人間』との評価をし絶賛した。
各国がこぞって『次世代の人間』の製造に乗り出し多くの優秀なアンドロイドが世に出回る中、とある国が画期的な技術を発明した。
その技術とは『リンフェンコード』
<魂のデータ化>とまで言われたその技術は当時不可侵の領域だった脳のデータ化を可能とした、まさに人類が手にした神の御業だった。
何もかもが不自由な肉体から、全てが優れたアンドロイド体に魂を移す。当時の多くの人間に支持され、それは世界を舞台とした巨大プロジェクトとなった。
その結果、死に怯えていた人間達はそのほとんどが記憶、感情をデータ化しアンドロイドに移す事で『永遠の命』を手に入れた。そのような背景がありアンドロイドに人と同等の権利が正式に認められた。
それまで人間とアンドロイドの違いは脳の有無であると明確に線引きされていたが、曖昧で人種の違いのようなものになり、いつしか人間はアンドロイド化するのがエチケットと言われるようにまでなった。
だが生身の人間の世代が2、3代交代するほど時が流れると、今度は人間の数が少なくなる。
人口の9割がアンドロイドを占めるなか人間は絶滅危惧種となり、国連会議の結果、反対ゼロ、満場一致で『人類保護法』が決められた。
もちろん人間たちは抵抗した。とうてい受け入れられるものではない。
正しいのは自然の摂理に従って生きてきた自分達だとの思いはあるものの、力ではどうにもならない事は分かりきっている。故に必死になって言葉を尽くし、なんとか保護法の撤回を求めた。
その結果、得られたものは絶望と諦めだった。
言葉を伝えているはずなのにまるで犬と人間の戯れのように意思の疎通がとれない。
暴れて抵抗するものは睡眠ガスなどで傷がつかないよう優しく保護された。
たった数日前までは仲のいい隣人だった存在が、わがままなペットを見るような眼差しでこちらにほほ笑む。
人間は、人類から愛玩動物に落とされた
全ての人間は特定居住域を定められ、そこで保護される動物となった。
作られた楽園。あらゆる災害から守られ、自然に満にち溢れ、花が咲き誇る美しい場所。
アンドロイド達のルーツとして大事に、大事に、人間達はしまい込まれた。
羽がない人間達は空を見上げ、在りし日のことを胸にただ祈る事しかできない。
それから約200年後、突然世界がひどく揺れ動いた。
流石のアンドロイドたちも自然災害には敵わなかったのか。それとも何か別のことか。原因はともかく数百年のデータの積み重ねだけではどうにもならなかった何かが起きたのだろう。
世界を管理していたプログラムは停止した。
ネットワークが使えず、魂の揺籠たるサーバーへの接続ありきで動いていた個体はすべて機能停止。整えられていた町並みは崩壊したまま。
動いているのは個人的に設備を自宅で抱え、かつエネルギーの供給手段を複数持っていた一部の個体のみ。克服したはずの死を意識してしまうこの状況では恐ろしくて外に出ることができない。
人間を超越した完全な存在たる不死のアンドロイド達は、不完全な存在である人間の存在を思い出していた。
時を同じくして
かつての栄光も、屈辱も。何もかもが人間達から忘れ去られ、ただ生きるだけの穏やかな日々が続いていたある日。人々は世界が揺れたことに驚いたものの、それは最初の数日だけ。
雨上がりの雫が陽に照らされ煌めき、世界を美しく飾り立てる。
穏やかな風の中を子供たちは笑いながら駆け回っている。
お祝いだろうか、摘んだ花で部屋を飾る人がいる。
美しい楽園。村は何の代り映えもないいつもの平和な日常に戻っていた。
その中から抜け出した少女が一人村のはずれで佇み、何かを求めるかのようにじっと見る。村と外をつなぐ橋よりももっと先。
すなわち、外の世界を。