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可愛いロボットは好きですか?


 俺の名前は「清明 結城(きよあき ゆうき)」、どこにでも居る平均的な男子高校生だ。

 中学の時は陸上をやっていたおかげで身体は引き締まってはいるが、今の高校ではゲームスポーツ部に鞍替えした。

 

 これまでの人生――それは部活動に、勉強がプラスされただけ。というよりその2つが忙しいし、親に遊ぶことなんてさせて貰えない環境だった。

 高校でも陸上や、あるいは勉強することに情熱を燃やすことが出来ていたならば、こんなに思い悩むことはなかっただろう。


 しかし、俺はある日――高校の合格発表のあの日、気付いてしまった。


 たまたま立ち寄ったカフェでホットコーヒーでも飲むかと席に着くと、向かいの席に俺と同じような年代の男女が座っていた。

 可愛い女子が笑顔で、彼氏らしき男と一緒に合格の喜びを分かち合い、イチャイチャしているを見て、こう思った――。


「彼女が欲しい! 女友達でもいい!!」


 俺は普段はそんなことを表にも出さないのだが――内心で、こう思ってしまったのだ。

 とにかく異性と触れ合い、帰り道にデートしたり、一緒にゲームとかしたい。


「そう、女の子にモテたい!」


 毎日、夜空に向かって神様に願ったおかげか――。


 俺は平均から、大きく逸脱した青春を送ることになったのだ――。


 ◇

 

「お疲れ様、結城君。放課後……暇かな?」

「――お疲れ、アテナ。暇じゃないけど用件次第かな」


 今では俺にも、モテ期が到来していた。

 学校も終わり今日は部活動も無いので、学校の正面口から出たところで――彼女に、()()から声を掛けられた。


「ちょっと、そこの月面ステーションまで亜光速ドライブ行ってみない? 私、頑張って飛ばすから夜までには帰れるよ! あっ、でもそのまま一晩一緒に過ごしちゃっても……いいかな」

「いや、えっと、その……」


 可愛らしい合成音声で話しかけてきているのは「ATENA・EX-01」という全長6mほどの女性型ロボットである。

 全身が桃色の装甲をしており、女性らしい体つきをしている。腰の部分には申し訳程度のスカートのようなパーツが付いている。

 普段は人型だが変形することで戦闘機形態にもなれる。日本の軌道エレベータータワーから彼女に乗れば、半日もかからず月まで行って帰れるだろう――ただ、そんな速度で飛んで俺の五体満足は保障されるんだろうか。

 

「待ちなさいアテナ! 結城君は、わたくしと一緒におデートする予定よ!」

「その聴覚センサーに響くキンキン声は――フレイヤ!」


 俺もその声がした方を振り向くと、そこは全身ゴージャスな造りの、金や紫で彩られた女性型ロボットが、日傘型ガンランスを片手に優雅に佇んでいた。

 彼女の名前は「フレイヤ・グランド」という、火星開発などを手掛けるグランド財閥所属の女性型ロボットだ。

 お嬢様らしく金色の縦巻ロール型のドリルが付いていて、レースクイーンの姿形に似ている。

 多様なユニットを用いることで、様々なレンジ、戦況に対応した形態へと換装できるのが特徴だ。ちなみに本人のお気に入りは重火器モード『ビルディス』らしい。

 ヒールを履いているせいか全長は9mほどで、女性型としては大柄な部類に入る。

 

「結城君、わたくしと月に行きましょう。そうすれば――前から観たがっていた宇宙国連軍の艦隊演習を最も良い席で観戦できるプラチナチケット、差し上げてもよろしくてよ」

「え、マジで!?」

「ちょっとフレイヤ! モノで釣るなんて、そんなに自分に魅力が無いのかしら!」

「あーらアテナさんこそ。ちょっといつもよりスカートセンサー、短くしてんじゃなくって?」

「え、いやこれは……」


 アテナは慌ててスカートセンサーを抑える。

 しかし、だ。そもそも俺の身長は169cmしか無いので、下から見ればスカートの中身も全部丸見えである。

 そしてこれは重要なことだが――俺は、ちっとも嬉しくない。

 

「2人共、ちょっと待ちなさい!」

「げっ、委員長だ」

「なにかしら、リリスさん」


 LILITH・AS<リリス・アームズ>は、正面口の方から出て来た。

 流れる黒髪のような冷却パーツ。スタイリッシュな流線形の身体には無駄が一切無い。その上には、この学校の指定ブレザーを着用している。光沢レンズの瞳にメガネを掛けているのだが、ロボットにメガネは必要なのだろうか?

 驚くべきはその全長。なんと3m弱。さらに室内では足を折りたたむことでホバー移動もできるので、人間と同じ居住区での生活も出来るという。

 彼女は極端に減ってしまった人類の生活保護を目的としたロボットで、家事全般はもちろん有事の際には自身がパワードスーツとなって、人間に装着することも可能。


 ちなみに彼女はアテナ、フレイヤ――そして俺と同じクラスの委員長でもある。

 超少子化のせいか、ロボットやアンドロイド達と同じクラスだ。中学の時は人間しか居なかったので、これはこれで新鮮ではある。

 

「2人共……今日まで期限の射撃演習レポート……提出したかしら?」

「えっでも、今日は結城君とお月様までデートしたいなーって――」

「そんなレポート。後で爺やにでも書いて貰って送信しとくから、後にしてくださいませ」

 

 キラッとリリスの瞳センサーが光る。


「クラス委員長として、そんなワガママ認められません!」


 委員長の背中から4つの影が飛び出す。

 これは彼女専用の無線浮遊型サポートユニットで、それに取り付けられたアーム型マニピュレーターは意外と力強い。

 ユニットのアームがアテナとフレイヤの腰をガシッ掴み、宙へと浮く。

 

「きゃあ見えちゃう!」

「ちょっとリリスさん、無礼ですわよ!」

「文句は後で聞くから――それじゃ結城君、ちょっとこの2人借りていくね」

「あ、ああ……」


 2人は宙に釣られた状態で、委員長と共に学校の方へと帰って行った。


「はぁ……モテの方向性が違うぞ神様……」


 俺は1人、ため息をつくのであった。


 ◇


 3024年、地球。


 1000年ほど前から悩ませていた少子化問題はいよいよ加速し――世界人口は衰退しまくっていた。

 3024現在40億。1000年前から2分の1になってしまったのだ。

 そのせいで体裁が保てない国が続出し、どんどん大国へと吸収され――107か国となった。


 もはや人類のみではインフラの維持すら困難――となったのがもう900年以上前だ。

 そこで登場したのが高性能なAIシステムを搭載した作業ロボット。管理や作業を一任し、最終チェックのみ人間が行う。

 さらに年数が経つと今度は農業や漁業にも影響が出始め、これもAIを搭載したロボットが行うようになった。


 時代が進むと月面や火星への進出も、人間は極少数の宇宙飛行士や技師達のみで――後は同じようにAIを搭載したロボットによって土木や建築、環境改善作業などが行われた。

 そこから時が進むとAIも自己成長をし続け――いつしか人間と同じような感情を持ち、人間のように考えるようになる。


 それもそのはずだ。AIが学習するのは身近に居る人間達からなのだから。

 

 それを危機として訴える学者や団体、国家も少なくなかった。

 いずれはAIが人間を不要と判断して、反抗されようものなら人類は全滅しかない。

 

 しかしまぁ、そんな日が来る事はなく何百年も経過して――。

 ロボットと人間は、なんか上手く共存していた。

 

 ◇

 

「はい、結城君。あーんして♪」


 次の日――。


 昼休みにヘリポートのある屋上で飯を食っていたら、案の定アテナがやってきた。

 別に教室で食べることもできるし、部活仲間と一緒に学食へ行ってもいい。

 しかしまず間違いなくアテナ達が絡んでくるし、教室だと騒がしくて他のクラスメイトに迷惑なので――こうやって広いスペースを確保できる屋上になる訳だ。

 まぁ、教室も格納庫を併設してるから広いは広いんだけどな――。


「いいよ、1人で食べれるから」


 彼女は器用にもその大きい手で小さなハシを持ち、自作風の冷凍弁当からタコさんウィンナーを持って俺の口元へと運んでくる。

 一体、どんな持ち方をしているのか気になるが――。


「ほーっほっほっ。庶民臭い弁当なんか用意しちゃって。これだから民間の地方企業は貧乏臭いったらありゃしないわ」


 フレイヤは屋上の入り口、その上にある給水塔横で口(?)に手を当てて高笑いをしていた。

 ちなみにグランド財閥は世界2位、対してアテナの所属するオリンポス工業は日本で第3位。東京のやや北東に本社がある。

 

「げっ、フレイヤ! また出たわね!」


 また出たも何も俺らは同じクラスで、俺が屋上へ向かったのを見てアテナとフレイヤが先回りしていたのは知っている。

 そして、フレイヤがずっと給水塔の陰からこちらの様子を伺いながら、出番のタイミングを計っていたのも知っている。


「そんな弁当より、わたくしの財閥が所有する一流のシェフマシンが作った、最高級のディストピア飯なんかいかがかしら。1000年前の文献から蘇らせた一品ですわよ」


 彼女がパチンと指を鳴らすと、どこからともなくドローンが金属の長方形の箱を運んでくる――かつてオカモチと呼ばれた料理の出前をする時に使う、専用器具だ。

 フレイヤは器用にもオカモチから料理を取り出す。


「さぁ、食べてごらんなさい」

 

 トレイの上には緑と赤の四角い豆腐のような塊が2つ。紫とピンク色のペースト状の何か。飲み物が無ければ喉が詰まりそうなブロックのようなお菓子が数本。


 ちなみに1000年前は『将来、食料が足りなくってロボットにより人類は管理される』という漫画や映画があって、それに出てくる料理がこのような形をしている。

 バイオ生成肉や、人工野菜などの代用品が主流になり、本来の肉や野菜は超高級品になってしまった――とある。

 しかしながら1000年後の世界は世界人口の大幅減少と、AIロボットによる管理と生産が噛みあい食料自給率が大幅にアップ。

 それは宇宙でも同じで、独自の栽培技術や輸送技術の向上もあり宇宙でも新鮮な野菜が食べられるのである。

 

 先人達の食に対する熱意に大感謝。

 

「……美味しいの、これ」

「シェフ、美味しいわよね」


 ドローンに付属しているスピーカーから機械音声が流れてくる。


『ハイ、フレイヤ様。この料理はタイヘン美味しいと、ラインでたまに盗み食いをしている所長にも好評です』


 このシェフマシンって、確か食料加工工場に据え置き型のロボットだったような――生産ラインで盗み食いってなにしてんだよ所長。


「さぁ、結城君。盗み食いしている所長にも大好評のディストピア飯、食べてごらんなさい」

「その所長、大丈夫か?」

「大丈夫よ。盗み食いを見逃す代わりに、一番高級なのタダで譲って貰ってるんだから」

「フレイヤ! アンタこそみみっちいじゃない! 財閥のお嬢様なら、そのくらい買いなさいよ!」

「ほーっほっほっ! 最近パパが『人間用の食料とかチケットとか買い漁って、まさか男でも出来たかのか!?』って言って、お小遣い減らされたのよね……」


 少ししょんぼりするフレイヤを見て、俺は手を差し出す。


「……はぁ。俺が食べないと無駄になるんだろ……自分で食べるから、それも弁当も渡してくれ」

「はーいっ」

「分かりましたわ。ここで貴方が食べる様を、じっくり観察してあげるわ」


 ロボット2人に見守れながら――俺は昼飯を食べるのであった。

 ……マジでなんでこの2人にモテてるんだろうか――。


 ◇


「今日も屋上昼飯デートだったんだって?」

「はぁーいいよなぁ結城君は……」


 俺と同じようにパソコン一体型デスクの席に着いている男子学生が2人。

 左には、野生児のような風貌とワイルドな眉毛が特徴的な神代(かみしろ)

 右には、小柄で少し太り気味で眼鏡を掛けている、少し内気な鈴木(すずき)

 どちらも隣のクラスの、同じ部活動の仲間だ。

 

「いい訳ないだろ」

 

 いつもの退屈なようで若干スリリングな授業も終わり――放課後の格納庫付き空き教室。

 この広い教室を俺達3人だけで使っているのは若干居心地が悪いが、他に使える教室は他の部活動で埋まっているか、使用許可が下りなかったのだ。


「いつもいつも付きまとわれるから、もう最近はクラスメイトも寄り付かなくなったんだぞ」

「でもリリスちゃんか、あとアンドロイドの初音さんともよく話してるじゃん!」

「……訂正する。人間のクラスメイトが離れていくんだ――あと、何故か俺が副委員長なので委員長とは話機会が多いだけだし、初音さんは席が隣なだけだ」

「羨ましい! 僕も女性型ロボットに囲まれたい、触りたい、頬ずりしてみたい!」

「そこまでやったことねーよ!」


 俺はそう言いながら、腕輪型端末を目の前の机に近づける。

 すると机の内部にあるパソコンが起動し、宙に青い色のモニターが投影。

 机の上には2本のレバーが起き上がり、側面下部からはフットパネルが出てくる。

 いつものようにモニターをタッチし、“ゲーム”を起動する。


「こいつ授業中、休憩中でも女子をジロジロ見るもんだから、席替えで回り全部男子に固められてるんだぜ」

「しかもムサ苦しいゴリラ型とマッチョ型アンドロイドだよ! 息苦しいにも程がある! 授業も集中できないし、このままだと学力下がっちゃうよぉ」


「「自業自得だな」」

 

 俺と神代の意見が一致したところで、モニター付きヘッドセットと専用のグローブを装着。慌てて鈴木もゲームを起動し、装着する。

 

『フルメタルイージス、起動成功』



「お帰りなさいませ、マイマスター。今日のご用件は如何に致しましょうか?」

「神代と鈴木――”フカヒレ王”と“リンリン”を待ってバトルモードで遊ぶから――3人一緒に遊べる部屋を探しておいてくれ」

「了解しました」


 このフルメタルイージスは、仮想フィールドでロボットを操作するFPSファーストパーソンシューター。つまり自分の視点で自機を操作するタイプのゲームだ。

 よくあると言えばよくあるゲームだが、最大の特徴は”実在するロボット”をゲーム内でレンタルして遊ぶことができることだろう。

 例えばアテナの所属するオリンポス工業、フレイヤの所属するグランド財閥なんかも協力している。つまり彼女らもまたゲーム内で使える機体のひとつだ。


 ただ、このレンタルシステム。マップによって機体に制限があるのはいいが、その日によって使える場所が異なっているのだ。例えば今日のフレイヤは地球マップ限定。

 さらに借りられるどの機体も数に制限があるらしく、噂ではリアルの生産台数と同数らしい――そこまでリアルに寄せなくてもいいのに。

 

『今日はなに使おうかなー。やっぱグランド財閥のヴァルキリーかなー』

『オレはいつも通り、寝台(しんだい)グループのテンタクルスだな』


『条件に合うルームを156部屋見つけました。条件を絞りますか?』


「イエスだ。条件に地上戦、対人戦、フラッグ、2回先取を追加だ」


 地上戦は地球、または月面のような重力のあるフィールドのいずれかのマップ。

 対人戦はプレイヤー同士のバトル。対AI戦なんてのもある。

 フラッグはバトルルールの1つ。互いの陣地にある旗を取り合うゲームだ。

 このルールで、先に2回旗を取った方の勝ちだ。


『了解――37部屋見つけました』

「えっと、じゃあこの“Fuckin' Jap”ってルームで」

『えー明らかに煽られるやつじゃん』

『へっ。おもしれーじゃねーか』


 部屋を選ぶとステージの詳細が表示される。

 戦場は月面の窪地にあるフィールド。岩場が多く、隠れる場所が多数あるマップだ。


「運よくATENA・EX-01も借りれるようだし、これでいくか」


 入学する前の春休みからこのゲームにのめり込み、そこでたまたま偶然フレンドになったのが目の前に居る2人だ。

 アテナはその頃から使っている愛機――フレイヤもそうだ。

 だからこそ、入学してから()()()()で向こうから声を掛けられた時は、心底ビビった。

 ただ今俺が選んでいるアテナはスカートセンサーなんて付いていないし、代わりに真っ赤な鎧のようなパーツが装着されている。名前が同じだけの別機体だ。

 

『でも変形禁止だよ? 大丈夫?』

「大丈夫だ。アテナのことは、俺が1番分かってる」

『よーし。向こうも準備できたみてーだし……やるか!』


『ではスタートまで3、2、1――グッドラック』


「「「グッドラック!」」」


 俺達は揃って「出撃」のボタンを押した。

 

 ◇




「じゃーいつも通り、守りは任せたぞリンリン」

『はーい』


 俺が乗るアテナのブーストが点火し、フカヒレ王の乗るテンタクルスも月面を走る。

 テンタクルスは黄色い装甲で、杖を持った魔法使いのような見た目のロボットだ。この杖自体も武器ではあるが、その真価は装甲の下側に仕込まれた”とある武器”にある。


「ん?」


 ピュンッ――。

 

 岩場を縫うように一筋の光がこちらの機体を掠め、地面を穿つ。


『あぶねっ』

「向こうにスナイパータイプが居るみたいだな――俺が先行するから、フカヒレ王は周囲の警戒しつつ着いてきてくれ」

「了解だ、“ブレイヴ”」


 このブレイヴとはもちろん俺のプレイヤーネーム。結城と勇気――なんて安直な名付けだと我ながら思う。

 俺は画面上に表示されるマップ情報や武器情報を、専用グローブを付けた手で操作しながら確認する。

 

『センサー範囲に反応無し……マップを大回りで迂回してフラッグに向かってんのか?』

「だ、そうだ。リンリン、そっちはどうだ」

『まだなんにも来てないよー。もしかしたら迷彩装備使ってるかもしれないし、気を付けてみるよ』

「――向こうの砂(スナイパーの略称)とガード役をさっさと片付けて、勝ちを貰おうぜ」


 セオリー通りなら、こちらのようにフラッグを守っている役目が1機居るはずだ。あるいは、砂が割と奥に引っ込んでいるので、その護衛として着いている場合も考えられる。

 そんなことを考えている間にも、岩場の隙間からの攻撃を避けつつ、要所要所に仕掛けられているセントリーガンやジャンプマインを処理しつつ進んでいる。

 当然だが、こちらが向こうに近づく度に攻撃の正確さは上がっている――。


「ふぅ、ようやくここまで来たな」


 俺とフカヒレ王は大きな岩場に姿を隠している。

 向こうからの攻撃も一旦止んでいるのは、こちらの出方を待っているのだろう。


「恐らく次に岩場から顔を出せば、出た方が狙われる――だから同時に出て、片方が敵を叩く。狙われた方は……気合で避けて敵を攻撃だ」

『こっちはそんなに機動力高くないぞー』

「気合で頑張れ――いくぞ」

『へーい』


 岩場から2機同時に前へと躍り出る。


 と、同時に正面から飛んでくる攻撃――。


 敵の攻撃対象は――俺。


「――ここだ」


 しかし、ほんの少しだけ横ステップするだけで、当たっていればヘッドショットだった攻撃を余裕で避けて――。


『ブレイヴ!』


 フカヒレ王からの声が聞こえたと同時に、俺は真横、さらに左上からも同様にビーム攻撃が来ていることに気付く。

 

「チッ」


 舌打ちをしながらその場でしゃがみ回転するようにレバー操作。

 少し掠ったが、戦闘継続に問題は――、


『正面だ!』

「嘘だろ!」


 そのまま横っとびをするが、足部分のアーマーパーツの隙間にビームライフルによる攻撃が命中し破損――これは、()()からの攻撃だ。

 横からのさらなる攻撃は、フカヒレ王の捜査するテンタクルスのシールドでガードが間に合ったようだ。


「このライフルとは思えねーリロード速度、チートか」


 チート。

 それはゲームルールそのものに干渉して、自身の有利なようプログラムを書き換える行為。

 例えばHPや防御といったパラメーターを弄って撃破されないようにしたり、無限に弾を出して絶え間ない攻撃で制圧したり――そういったズルをする迷惑行為だ。

 当然ゲームの運営もチート行為を発見する度に対策もするし、迷惑プレイヤーの永久追放などやっているが、現状はイタチごっこだ。


『よぉ、ジャップ。元気にしてっか』


 岩場の陰から出て来た相手はゲームオリジナル機体の汎用機だ。丸い頭に角ばった体で、大昔の宇宙服を着た人間にも見える。

 レンタル機体はチート対策が何重にもしてあるので、大概のチートは汎用機で行われる。

 さらに左上の岩場、横の岩場からも同じ見た目、同じグレーのモノトーンに、腕にリアルなドクロが描かれた機体が出てくる。

 この悪趣味なドクロには見覚えがある。

 

「誰かと思えば、先週ボッコボコにしてやったカス野郎共じゃねーか」

『そのカスにやられる気分はどうだよ』


 再びライフルで、頭への攻撃。

 左足がやられて動けないので、咄嗟に腕のアーマーパーツを盾にして顔を守る。

 アーマーパーツは破損し、その機能を停止する。


「おいおい。仮にも女の子の機体だ……顔は止めろよな」


 オープンチャンネルでそう言うと、


『ジャップってロボなんか可愛がっちゃって、カワイー趣味してんなー!』


 耳元でゲヒた笑い声が3機から聞こえてくる。

 横目で見るとテンタクルス側にも銃口が突き付けられ、身動きを取れないようだ。


「そうか? ウチのクラスメイトは、実際可愛いと思うぜ」

『そのままロボでオ〇ニーでもしてろ。バーカ』

 

 他の機体も俺に照準を合わせるが――。


「バカはそっちだ」


 3人のこのこ姿を現しやがって――。


『時間稼ぎ、サンキューな!』

『うわっ、なんだこれ!?』


 身動きが取れない状態のまま、テンタクルスの背中から伸びた半透明のケーブルが3本。

 それが3機の足元に絡みついていた。


『これが()()寝台(しんだい)グループのテンタクルスの実力だ!』


 そのまま電撃攻撃、からの持ち上げて地面に思いっきり叩きつけた。

 3人の視点では何が起こったのか、まるで分からないだろう。


『あ、足になんか絡みついてるぞ!』

『こ、こんな触手持った機体なんかあったかぁ!?』


 その言葉を聞いて、フカヒレ王がブチ切れた。


『誰がドマイナー企業の機体じゃワレェ!!』


 そう。

 神代のお爺さんが営んでいる寝台グループは、介護ベッドを中心に開発している()()メーカーである。

 そりゃ他のロボット開発企業と一緒にゲームに参加してても誰も分かんないって。


『この触手はベッドで寝たきりになるご老人のお世話もできる優れもんなんじゃぞ!』

『知るかボケ!』

 

 じゃあその電撃攻撃はなんだよ――とは言わないでおこう。


 どうやらチートは無限リロードのみだったらしく、3機は見事に全損し――その場で試合終了。

 もちろんその場で運営にも即通報して、奴らは即ゲームから追放となった。


 俺達は一旦ゲームをログアウトして、ヘッドセットを外す。


「僕なんの活躍もしてないんですけどー!」

「どうだウチのテンタクルスは。今度の大会でも活躍して、爺ちゃんの宣伝バンバンするからな!」

「ああ、期待してるぜ」


 来月行われるゲーム大会に向けての練習だったが、今日はもう疲れたのでここでお開きとなった。


 ◇


 次の日。


 いつものように寮から直通バスから降りて登校していると――。

 

「やっほー、結城君」

「アテナ。おはよう」


 あの桃色の装甲とスカートセンサーが特徴的な、女の子みたいは仕草をする彼女だ。

 

「今日も良い天気だよねー。月もよく見えるよ」


 確かに上を見上げれば――まだ沈み切っていない月がうっすらと見えるくらいの晴天だ。

 そしてそのまま、ふと――彼女へと目線を移す。

 なんかリズムを取っているように、小刻みに体を横に動かしているのが目に入る。


「――なんかいいことでもあったのか?」

「ふふふー。なんだろうねー」


 それだけ言うと、彼女は歩きながら学校の方へと行ってしまった。


「なんなんだよ……ん?」


 俺は足を止め、後姿の彼女を着目する――そう彼女の()()だ。

 右足と比べ、色合いが鮮やかだ。まるで、パーツを丸ごと交換したかのような――。


「――まさかな」


 こうして、俺もまた学校へと歩みを進める――。


 さて、今日も退屈なようで若干スリリングな授業と、ちょっと可愛いロボット達との日常が始まる――。


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