表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十五章:カチコミの時間じゃい!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

977/984

694.何を思っているんだろう?

〈お前達の仲間は、どうやら手強い。思った通り〉


 三角帽子と旅装を身に着けた鳩が、かつての恐竜のようなかぎづめを持つ指で、地面をカチカチと鳴らして歩く。


〈今、“夜叉プリースト”が負けた。そのコアは“提婆キャメル”に有効利用されるが、言葉を交わすことは二度と出来ないだろうな〉


 空では鳩が編隊飛行。

 地には魔法陣形で整列。


 時折、ボトリと鳩の死骸が降ってくる。

 投石や散弾でズタズタにされたそれらは、赤黒い染みに変わることによって、それ以外の全ての鳩を強化する。


 “鳳凰トリッパー”のダンジョン、“絶滅朱レッド・データ・デッド・ベータ”。

 「気付いた時には手遅れに」。

 減れば減るほど、強くなる。

 

 内部で飛ぶ億単位の鳩は、時間経過と共に次々と死んでいき、“鳳凰トリッパー”の各種能力を向上させる。


 そして更に、そいつは遠くの仲間達とも繋がっていた。

 彼らが負けて、その意識が途絶えるたびに、大幅に強化されてきた。


 元々そいつは、斥候スカウトタイプの駒だ。“環境保全キャプチャラーズ”の中では、特別武闘派というわけでもない。


 だが今の“鳳凰トリッパー”は、ill(イリーガル)4体分の“無念”が乗っている。

 その分だけ、強くなっている。


〈奴らは既に、実質上死んでいる。しかし、それらはかつて生きていて、たった今命を落としたのだと、その事実は無駄ではない〉

 

 黒と朱色のマフラーがはためき、風が持ち上げ曲がりくねるその上に、複数匹の鳩がとまった。それが固定された枝であるかように。


〈お前達は、私の仲間を殺した。その報いを、これから受けて貰うぞ〉


 歩みが止まる。

 その2mほど前方で、二人の人間がやっと立ち上がる。


「うっせーなー……!どーも説教くせーヤツばっか、相手にしてる気がするぜー……?」


 チャンピオン5位の吾妻漆と、


「被害者みてえな、ツラァしてるところワリいが……!こっちのダチを殺そうとした、そっちが火付け役だろうがよ……!」


 ランク8の乗研竜二。


 “鳳凰トリッパー”が揺れる柳のように泰然たいぜんとしている一方で、二人は全身傷だらけな上に、肩を上下させている。


 最初は、人間側が互角以上に戦いを運んでいた。

 “鳳凰トリッパー”が出来るのは、その能力を活かしたヒット&アウェイ戦法だけだった。


 正面で戦い続けると押し切られる、そう感じたそいつが彼らの足止めに徹し、ダンジョン内に突入させないように立ち回る。乗研と吾妻はそれを迎え撃ってから、逃がさないよう連携して攻める。


 そんなやり取りを、十数回ほど演じていた。

 そのままであれば人類有利な状態で、進と“提婆キャメル”の決着がつくまで、引き延ばすことも出来たかもしれない。


 だが皮肉にも、人間が速やかにill(イリーガル)を打倒していったことで、二人が追い詰められていくこととなった。

 

 ダンジョン内で3体目がやられたくらいのタイミングで、“鳳凰トリッパー”の踏み込みが見えなくなった。

 羽根がライフル弾のように高速になり、短機関銃サブマシンガンのように高頻度で連発された。

 一発でも刺さったら、内部から爆発。

 掠っただけでも、付着した魔力が掘り進み、更に傷を深くする。


 そして、攻撃を受けてしまった瞬間、マーキングが定着する。

 何を間に置いても、“鳳凰トリッパー”はそれらを無視して、必ず目的地に辿り着く。


 行き先を決めたそいつは、その対象以外の一切に干渉されない。

 たとえその者が行使する魔法であっても、である。


 二人が持つ守りが無意味化され、イリーガルと肉弾で直接殴り合うことを強いられた。

 救世教会の最新アーマーや、丹本の最先端潜行用スーツで身を守っていて、並の弾丸なら余裕で対処できるほどの肉体強化を施して、


 それでも、押される。

 鳩の筋力と獰猛さを持ち、仲間達の死を背負ったそいつに、二人で力を合わせても超えられない。


 届かない。




 そして今、ダメ押しで4体目の強化が入った。




 3点差で突入した後半アディショナルタイム中に、4点目。

 この時点で、勝つのがどちらか、明らかになったようなものだ。

 

〈懺悔の時間を希望するなら、くれてやる〉

「おととい来やがれ」

「……何を謝ればいいのか分かんねえで、適当な謝罪はできねえ主義だ」


〈そうか。ならば死ね〉


 右脚が消失。

 乗研の左腕、りゅうのそれに変身していた部位が、魔力での重点的な強化を受けながら、切断される。


 黄金板と楕円ゲートが軌道を大雑把に塞いでいたが、キックはそれをすり抜けている。

 黄金が幻影を見せていても、マーキングが正しい位置情報へと導いてくれるので、攻撃は狙いを外さない。

 

 だが乗研が攻撃を受けたということは、今の「目的地」が彼なのだ。

 なら乗研の格闘攻撃であればすり抜けない。

当てられる。


 左で受けた衝撃を乗せた右の一発。

 相手が強力なら、その強力さを利用したカウンターを放てばいい。

 死ななければ、それで勝てる。

 

 だが左腕を斬り飛ばしてから右腕に殴られるその僅かな間、主観時間が泥の中のようにゆったりと流れる“鳳凰トリッパー”は、目的地を切り替えた。


 羽ばたきながら軸足をひねり、右脚を横に薙ぐような2撃目。


 念の為にキックを放っていた吾妻の左足首から先が、ブーツごとじり曲げられる。

 足は1秒に30回転。

 ブチり、千切れ飛ぶ。


 旅装の鳩は流れるように左脚を曲げて、片足でジャンプ。

 背後の楕円ゲートから出ていたナックルダスターをやはり右足で迎撃。


 吾妻が吹き飛ばされた勢いで繰り出していたパンチだったが、“鳳凰トリッパー”の反応に間に合っていない。


 そのままハチドリの如き羽ばたきを見せて滞空し、空中で自由になった左右の足で連続攻撃。


 打撃でもあり斬撃でもあり刺突でもある猛禽もうきんキック。

 時に同じ足を連打し、時に交互に繰り出し、時にくるくる回り、目的地を何度も切り換える多彩な攻勢。


 魔力を纏ったマフラーさえもが、高熱の刃となって胴や首を狙い、合間で羽根飛ばしを連発することで、地面や彼らの防具に深い穴を開ける。


 飛び道具と言えば楕円ゲートでの死角攻撃くらいな二人では、手数に対処しきれない。

 

 “鳳凰トリッパー”が着地して構え直した時には、二人とも肩を貸し合って、黄金板で体を支えていなければ、まともに立ってすらいられなかった。


〈終わりだ、人間〉


 光を宿さぬ鳥の眼が、帽子の下から無機質に観察する。

 悲観も油断もしない思考が、10割近い勝率を算出する。


〈全てはお前達の因果、お前達の行いが招いた——〉


「何を迷ってやがる?」


 判決文を詠み上げていた“鳳凰トリッパー”は、法廷ルールを守らない被告人に話し掛けられ、そのくちばしつぐんでしまう。

 

〈………迷い、とは?〉

「テメエのお仲間が、死んだ。テメエは強くなった。そして今、永級1号の中のイリーガルは、“提婆キャメル”1体だけだ」

「確かによー……。こんなところでくっちゃべってる暇、ねーよなー?仲間の意思を無駄にしねー為にも、今すぐ“提婆キャメル”を守りに行かないといけねーよなー?」


 この期に及んで罪の意識を問うてくるなど、悠長に過ぎる。

 問答無用で即殺してから、ダンジョン内へと救援に行かなければならない。

 

「俺の黄金板は、願望を映す。テメエは俺達の位置を分かってはいるが、それはそれとして黄金板の光景は見えている筈だ。テメエの耐呪能力は関係ないからな」


 「何が見える?」、

 そう問いながら、顔の前に偽の黄金を生み出す乗研。


 そこには、彼ら二人の惨殺体。

 四肢を失い、臓物を抉られ、目玉をり抜かれ、それらを生きたまま受けたような、苦悶の表情を受けべていて——


「要らねえ嗜虐が、入ってんじゃねえか?」

「おいおい、マジメくさった顔して、猟奇ドSかよ」

〈私が、快楽の為に、やっていると?〉


「俺も最初はそう思ってた。だがどうやら見ていた感じ、テメエは本気でクソ真面目だ」


 けれど、相手の苦しみを使命より欲しているかのような、暗い情も同時に覗かせる。


「どっちなんだよ?リュージ」

「どっちなのか、コイツにも分かってねえんだろ、どうせ」


 かつての乗研が、自分の為か他者の為か、その軸を見失ってしまったのと同じ。


「言い訳してるうちに、わけが分からなくなって、自分の本心がどうだったか、それを思い出せねえんだろ?」


 だから、迷っている。

 

 自分がやっていることが、正義に則った処断であると、自他にしつこいほど言い聞かせ、微妙な納得を押し切って、それでようやく相手を殺す。


 そうしないと、そいつの価値観でそいつ自身が、悪になってしまうから。

 そいつは悪になりたくない。


 つまり、殺したくはないのだ。


「言っておく。テメエが俺達を殺すって言うなら、俺達はテメエを殺すぜ?だがよ、テメエが殺したくねえって言うなら——」

 

——この馬鹿らしいやり合いは、

——お互い様で流そうじゃねえか


 追い詰められている側の、立場を理解しない不相応な提案。


 だがその言葉は、奇妙にもその場を支配した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ